『住友銀行秘史』(國重 惇史著、講談社、2016年10月発行)

バブルの末期に住友銀行イトマンであったできごとの裏話。

住友銀行天皇といわれた磯田一郎会長が辞任するまでのいきさつ、磯田の腹心でイトマンに送り込まれた河村良彦社長が伊藤寿永光に取り込まれて不動産事業にのめりこむ。また、絵画取引では許永中も登場する。日本のバブル(主に土地)を象徴するできごとの一つについて解決を目指して仕掛けた記録である。

ハイライトは、やはりイトマン改革であるが、メーンバンクである住友銀行でさえも融資の詳細が分からなかったという。

全体としてみて、決断が足りない。様子をみようという動きが多いが、歯車が逆回転を始めたところで様子をみるのは最悪である。ますます膿が増える。この点、イトマン会社更生法で処理しようとして、頭取に何度も心変わりはないと言質をとりながら、最後の段階で「ちょっと待ってくれ」といわれた場面が一番印象に残る。結局は、会社更生法の適用に大蔵省が頑強に反対したということである。イトマン債務不履行地方銀行などに取り付け騒ぎが起こったらどうするのか? ということだそうだ。

しかし、この時点は1990年11月である。バブル崩壊の認識もなかったら時期で銀行にも体力があっただろう。なぜ早期処理しないで問題を先送りしたのか? 大蔵省の責任が大きい。

『デジタルエコノミーの罠』(マシュー・ハンドマン著、NTT出版、2020年11月20日発行)

Googleはスピードを最も重視している。2000年初頭の実験では、検索クエリーで10件を返すよりも20件を返すとほんの僅か応答が遅くなる。それによってトラフィックは2割減る。粘着性(=繰り返し戻ってくる)は、スピードによって決まる。

ネットフリックスのコンテンツ推薦。パーソナル化はトラフィックを増やす。パーソナル化のためには大きな資源が必要なので、中小サイトではできない。

メディア選好は本質的に多様なのか?

ウェブのトラフィックは集中した頭に小規模サイトのきわめて長く分散したテールと組み合わさっている。これはどこから来たのか? 確率的動学システム(SDS)アプローチを学ぶ。規模が安定性をもたらす。ヒットワイズ社はISPからデータを集めている。株式市場とウエブトラフィックの集中パターンは同じであり、それは絶え間ない市場の入れ替わりによって作り出されている。

ハイパー地方メディアはトラフィックを得られない。Patchの広告売上は悲惨であった。オンライン地方ニュースはページビューの0.5%しかない。インターネットは地方ニュースの声を拡大していない。聴衆も少ない。

トラフィックを増やすために

・読み込み時間が速いとトラフィックが増える。

・サイトデザインとレイアウトがトラフィックと購買決定に重要な影響を与える。ナビゲートしやすいサイトを作る。

・パーソナル化されたコンテンツ推薦システムは決定的に重要である。

・より多いコンテンツ、更新頻度が高いこと。

・他の条件が同じなら、少量の長いコンテンツよりも多量の短いコンテンツの方がトラフィックを増やせる。

・長い記事も重要。多様性が重要なのである。

・見出しの検定とリード文の改善でトラフィックが激増する。見出しをソーシャルメディア向けに最適化する。(ただし、ソーシャルメディアアルゴリズム変更で一夜にして消え去る危険がある。)

・マルチメディアコンテンツは文字のみよりもトラフィックを集める。スライドショーもOK。

●オンラインでA/B試験を行う。

・他属性変更試験プラットフォーム

空想の理想のインターネットは分散するが、現実のインターネットは上位企業に集中している。

『世界の起源ー人類を決定づけた地球の歴史ー』(ルイス・ダートネル著、河出書房新社、2019年11月30日発行)

科学者が書いた人類の歴史である。本書は地球という星の地学的変動と人類の活動を関連づけて説明している。大気などの地球環境の物理的な特性、陸の成り立ち、大陸の移動などによって人類の歴史が決定付けられているという視点が斬新である。地球の変動は億年単位の古さで人類は長く見ても万年の単位という桁違いなのが、この両者の関係を語るという点が著者の着想の妙といえる。

人類は東アフリカの地溝帯で生まれ、現代でも最大の都市の一部は断層の上に築かれている。人類が猿の仲間からなぜ分離したのか。東アフリカ地溝帯で人類の祖先が生まれた。ホミニンの最古の種は、エチオピアのアワッシュ川流域の森で440万年前に生活していた。樹上で生活するが2足歩行ができる。森林が減少してサバンナになるにつれて2足歩行が優位となった。200万年前のホモ・エレクトスで脳が発達した。石器による狩猟をした。地溝帯と地球の気候変動がホミニンの進化に影響を与えた。古代文明はプレート境界に生まれた。断層の水源、プレート境界の山から削り出された豊かな土壌などがその要因であり、人類はプレートテクトロニクスの申し子である。

現在は完新世間氷期で比較的暖かい状況にある。しかし、過去260万年は寒く、氷期間氷期の繰り返しだった。この周期は、地球の軌道の離心率の変化:10万年周期、地軸の傾きの変化:4万年周期、地軸の歳差運動:2万6千年周期、の組み合わせ。

第6章の金属についてでは、銅、錫、鉄、その他の多様な金属が地球の歴史の中でどのようにして作られたか、その結果、地表ではどの地域に存在するか、人類がどのような経緯でそれを活用したかを簡単にまとめている。とりわけ青銅で反映し、ティーラ火山(サントリーニ)の大噴火を機に滅亡したらしいミノア文明が面白い。

第9章エネルギーでは、人類が木炭をエネルギーとした時代から、石炭エネルギーになって工業生産が活発になったが、その石炭の層がどのようにしてできたかを説明する。石炭紀超大陸パンゲアの構築期であり、南極のゴンドワナ大陸の周りには大きな氷塊があった。植物が枯れても分解されず二酸化炭素が泥炭として固定化されたこともあり、地球の温度は寒冷であった。また、大陸の移動により泥炭を作る低湿地ができ、その湿地が沈み込むことで石炭層ができた。石油はテチス海で1億55百万年前を1億年前にプランクトンの死骸からできる頁岩を経過して作られた。白亜紀パンゲアは分裂、暖かい海水、海底の酸素不足。

『ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の心理』(バーキン・マルキール著、日本経済新聞社、2016年3月9日発行)

ファンダメンタル価値は投資対象には絶対的な価値があり、それは現状分析と将来予測を注意深く行うことで推定できると考える。砂上の楼閣派はケインズ美人投票論に代表される。

1959年米国はトロニクスブームの成長株コンセプトでPERがプラス15倍、意味不明の社名で倍になる。1962年に瓦解した。IBM、TIの株のPERは80倍以上だったが1年後に20~30倍となる。

PERのより低い会社と合併すれば、一株あたり利益が成長しているように見せかけることができる。米国では1960年代合併により利益成長を演出するコングロマリットブームを生んだ。1960年代末コングロブームは自壊した。

1960年代後半はパフォーマンスブーム。コンセプト株、下落率98%。

1970年代ニフティフィフティ 優良大企業への投資。1972年⇒1980年PER ソニー 92⇒17、マクドナルド83⇒9、ウォルト・ディズニー76⇒11、HP65⇒18など。

1990年代末から2000年代初めのITバブルはもっとひどかった。例えば、アマゾンは2000年に75.5ドル、2001~2002年の安値では5.51ドル。下落率92.7%。未曽有の新規公開株ブームでは2000年の第1四半期だけで916社のVCが1009のインターネット新興企業に157億ドルを投じた。2002年ワールドコム倒産。ITバブル下でテレコム業界への1兆ドルの投資が行われたが蒸発した。インターネットバブルは米国株式市場最大のバブルであった。

資産バブルが破綻したとき傷つくのは投資した人間だけではない。実体経済に深刻な影響を与える。

市場は株式に誤った価格を付けることがあるが、いつかは適正な価格に戻る。

テクニカル分析とは株価チャートを分析する。株価の動きの90%は合理的説明がつかないと考える。著者は過去の株価の記録を用いて将来を予測しても利益を得ることはできないと考えている。1960年代から1990年代半ばまでの30年間に起こった大きな上げ相場の95%が全取引日の1%強に過ぎない期間に起きている。⇒バイ&ホールド戦略が優れている

ファンダメンタル分析は逆である。

一般理論

・株価収益率は企業の配当や利益の期待成長率に比例している。期間が長ければ株価はより高くなる。

・現金配当や自社株買いが多いほど株価は高くなる。

・リスクが小さいほど株価は高くなる。

金利水準が低いほど株価は高くなる。

しかし、情報や予測は必ずしも正しくない。著者の規則は次の通り。

〇利益成長率が5年以上にわたって市場平均以上の株を買うこと。成長可能性が重要。

〇株価がファンダメンタル価値以上になっている銘柄には手を出すな。

〇投資家の受けがいい、ストーリーを作れる銘柄を探す。

企業の過去の経営実績と将来の成長の間には信頼に足る因果関係はみられない。アナリストの予想は単純な過去の延長よりも精度が良いと言えない。証券アナリストは業績予想ができていない。経営成果は偶然に左右される、利益の捏造、アナリストは利益相反、などなど。

投信のファンドマネージャーもお粗末。プロが運用する大型株式投信もランダムに銘柄を選んで作ったポートフォリオもパフォーマンスは変わらない。卓越したパーフォーマンスもあるが偶然でも起きうる。

非常に長い期間でみたときの株式投資(株式を買って永遠に保有し続ける投資家を想定する)の平均リターンは、足下の配当利回りと、今後の一株当たり利益、配当の成長率である。

投資期間が1年から数年の場合は、第3の要因である市場の評価水準の変化が重要である。PER、株価配当倍率など。この変化量は大きい。金利水準が低いと株価収益率は上がる。高金利のときは下がる。

1969年1月から1981年12月は配当利回り3.1%、1株利益成長率8%だったが、PERが-5.5%だったため年平均総リターンは5.6%にとどまった。PERが下がったのはリスクの増大に対する反応である、と解釈する。

1982年1月から2000年3月は配当利回り5.8%、1株利益成長率6.7%だったが、PERが5.7%だったため年平均総リターンは18.3%となった。PERの変化が大きい。 

2000年4月から2009年3月は配当利回り1.2%、1株利益成長率5.8%だったが、PERが-13.5%だったため年平均総リターンは-6.5%と失望の時代となった。

著者の進めるルール

1.少なくとも5年間は、一株当たり利益が平均を上回る成長を期待できる銘柄のみを購入すること。

2.企業のファンダメンタル価値が正当化できる以上の値段を払って株式を買ってはならない。

3.近い将来「砂上の楼閣」作りが始まる土台となるような確固たる成長見通しのある銘柄を購入すると良い。

4.なるべく売買の頻度を減らすべし。

この本は総じて個人の資産運用を対象としている。法人は想定外だろう。個人となると、日米でいろいろな制度の相違もあるので日本に適用するのは難しい気がする。

本書は株式市場が効率的であるという説をもとに、インデックスファンド投資がもっとも良いとしている。しかし、投資開始時期によっては必ずしもそういえない。例えば、日本では日経平均はまだ1989年の最高値を超えていない。1989年に日経平均連動ファンドを買ったとしたら、いまだに報われていないのである。極論すれば、結局のところ、買うタイミングの問題ということになるではないか?

『大英帝国の歴史 下』(ニーアル・ファーガソン著、中央公論新社、2018年6月10日発行)

下巻は、第5章から始まるが、1880年代から20世紀初めのアフリカ分割の話。1882年9月イギリスによるカイロ占領。ロスチャイルドの協力で南アフリカでダイヤモンド帝国を作ったセシル・ローズが象徴する経済力と軍事力(マキシム機関銃)による。1884年11月から1885年2月までのベルリンにおけるアフリカ貿易会議は西欧諸国がアフリカでの貿易の自由を取り決める。19世紀末英国の海軍戦力は世界で圧倒的なプレゼンスをもつ。19世紀末のボーア戦争はイギリスにとっての転換点となる。ボーア戦争への批判で保守党による政治から自由党に政治が変わった。20の初めヨーロッパでドイツが台頭し、流れが変わる。

第6章は第一次世界大戦でかなりの領土を得たが、戦争の費用と比べると経済的には釣り合いが取れなかった。戦争への支払いと均衡財政のためにデフレとなった。多くのイギリス人に帝国への懐疑が生まれた。アイルランド独立運動、インドの独立運動が盛り上がる。第二次世界大戦アメリカの支援でようやく勝てた。しかし、戦後イギリスの経済的地位は急速に低下した。終戦直後はイギリス経済は欧州最大であったが、1973年にはドイツとフランスに追い越されており、イタリアにも追い越される寸前であった。アメリカは必ずしもイギリスの立場を指示したわけではなく、例えば1956年11月のエジプトのスエズ国有化の動きに対して英仏遠征軍はエジプトの動きを封じられなかった。イギリス帝国はわずか30年で解体された。

終章はイギリスの果たした役割をずいぶんと好意的に書いているが、どうやら本書はBBCの放送番組だったらしいことを割り引いて考える必要がありそうだ。

『大英帝国の歴史 上』(ニーアル・ファーガソン著、中央公論新社、2018年6月10日発行)

イギリスは、17世紀央、スペインやポルトガルに遅れて帝国建設に参入した新参者であった。最初は、スペインやポルトガルの海外基地を襲撃して金目の物を奪い取ることからスタートした。イングランド王室は17世紀には海賊に私掠船としての許可を与えて海賊行為を合法化していた。

オランダ東インド会社は1602年会社組織として設立。イギリス東インド会社は1600年9月にスタートしたが航海毎に出資者を募る方式であり、恒常化したのは1650年以降。イギリスは1652年から1674年の間オランダを相手に3回の戦争を行った。しかし、オランダの財政の前に不成功となる。1688年の名誉革命でオランダとイギリスが経済的に合併して、イギリスの財政が近代化される。

1657年イギリスとフランスの7年戦争で、イギリスはフランスの海外領土を切り取り。

インド経営は18世紀後半ヘースティングス総督の時代にはうまくいかなかったが、その後ムーガル皇帝はイギリスの庇護を求めるに至る。

第2章は植民地(カリブ海諸国)と労働力、移民(米国)、流刑地(オーストラリア)、カナダ(植民地、アメリカ独立反対派の移住地)の話である。これらの国はイギリスからの移民先として発展した。過去にイギリスほど多くの移住者を出した国はないようだ。黒人奴隷とアメリカの自由のための独立戦争は矛盾した。イギリス軍はアメリカ独立戦争に勝つ可能性もあった。しかし、本国の中にアメリカへの同情が多く、全力で戦わなかったようだ。アメリカ独立戦争に対する反省によって、カナダの自治政府が認められ、英国連邦はできた。オーストラリアはイギリスの流刑地として発展した。現地人アポリジー二やインディアンの多くは移住者が持ち込んだ病原菌で死んだ。

第3章使命は、キリスト教の布教に関する活動の話である。主にアフリカのリビングストンの活動とインドへの布教。アフリカでリビングストンは超人的な探検と布教・商業への志向を示したが、彼の生きている間は失敗に終わった。主にマラリアと現地人の敵対的な態度による。現地に送られた宣教師からは多数の死者が出た。しかし、マラリアへの薬キニーネ、政治的支配などもあり現在ではかなり布教が進んだ。対照的にインドでは、大反乱がおき、1858年11月ヴィクトリア女王の布告によりイギリスの信念を、他の臣民に押し付ける権利と希望が否定された。

第4章天の系統は、イギリスのインド統治方法に関する話である。ヴィクトリア期(19世紀後半)、数千人のイギリス人が200年近く巨大なインドを支配した。インド高等文官は1858年から1947年まで1000人を超えることはほとんどなかった。その試験は歴史上もっとも難しいものだった。イギリス領インドはビルマから西パキスタンまでまたがる広大な地域であった。装甲艦による海上覇権、電信ケーブル網、鉄道。1851年に英仏海峡に海底ケーブルを敷設。1866年大西洋横断ケーブル。インド人の職員が官僚機構を支えていた。人種間の区切りと対立があった。インドで長く暮らすイギリス人はインド人への優位を保ちたいため、自由主義のイギリス人支配者が平等政策を打ち出すとイギリス人同士での間の対立もあった。カーゾンのような古いイギリス派の統治者もあり、対立は複雑であった。

ファーガソンは反語、比喩が多く、文章が回りくねっている。簡潔・直截でないので読んでいて愉快でない。文章に対する好みの問題ではあるが。

『ファクトで読む 米中新冷戦とアフター・コロナ』(近藤大介著、講談社現代新書、2021年1月20日発行)

21世紀は米中新冷戦の時代。中国の統治体制は2020年10月の5中全会で実質的には習近平による皇帝政治となった。

2013年習政権の目標

1.2021年までに日本を抜いてアジア1になる。⇒すでに達成済み

2.2035年までに一帯一路を完成し、ユーラシア1になる。

3.2049年までに、アメリカを抜いて、世界一になる。

中国は海外で爆買いから国内の爆買いに転じ、内需拡大となった。世界最大の市場。

2020年11月15日RCEPを締結。東アジア15か国の自由貿易協定。中国主導。

習近平は軍歴を常に兼任、現在も中央軍事委員会の主席を兼任している。

2027年の建軍100周年の奮闘目標(未公開)がある。

台湾統一が目標か?

GAFAとBATH(バイドウ、アリババ、テンセント、ファーウェイ)にハイテクのカーテン。ファーウェイは中国最大の民間企業であり、自由闊達な社風をもつ。米中間のハイテクのカーテン。ファーウェイの創業者は人民解放軍をリストラでやめた人であり、ビジネスは独自に海外を開拓して築いた。

デジタル人民元は、深圳で実験、今後、香港、マカオに広げる? アリペイとウィーチャットペイを超える国家統一デジタルマネーを作る?

米中全面対決、台湾攻防はハイテクを手中にする攻防でもある。台湾はスマホでは大手がないが、半導体製造では大手。例えば、ファーウェイの製造を支えてきたのは台湾のTSMC。2019年の売上の14%はファーウェイだが、23%はクアルコム。米国はTSMCがファーウェイの受託をできなくした。

新型コロナ対策の中、台、韓の比較。強権抑え込みの中国、ハイテク・スピードの台湾、工夫の韓国。

日本がアジアの先頭だった時代はすでに過ぎた。21世紀、日本のあだ名は年老いた金メダリスト。