『重臣たちの昭和史 上』(勝田 龍夫著、文藝春秋、1981年5月発行)

なかなか面白い。元老西園寺が首相を決める役割を担う時代の政変。日本では首相の任期が短いことが多いが、これは戦前の帝国憲法の時代でも同じであった。この時代に軍部・特に陸軍の発言力が大きくなっていく様子が手に取るように描かれている。

陸軍の発言力が大きくなったのは、特にトップレベルのリーダーが陸軍の利益のみを追求したのと下克上を押さえることができなかったことによる。陸軍を強化することで農村の窮乏を救えるなどという考えは経済に対する無知と誇大妄想以外のなにものでもない。

新聞や世論についてはほとんど書かれていないが、西園寺がしばしば国民のレベルのことしかできない、と嘆く様子から新聞が戦争をあおっていたらしいことが分かる。

近衛への期待が大きかったようだが、近衛の言動を見ると逃げ腰の上、国際的に日本が置かれた状況をあまり適切に(正しい)認識をしていなかったように見える。

泥沼の日中戦争にどんどん進んでいっている様子が、特定の人達の視点からではあるが、克明に描かれている。