『経済の大転換と日本銀行』(翁 邦雄著、岩波書店、2015年3月発行)

2007年夏からの金融危機以後、各国の中央銀行は、為替市場への無制限介入、量的緩和フォワドガイダンスによる期待への働きかけなどの非伝統的金融政策を取り始めた。本書の論点の第1は非伝統的金融政策が効果があったかどうかについてである。文章が入り組んでいて理解しにくいが概ね次のようになる。①安倍政権の円安誘導は成功したように見えるが、これは世界経済の円安トレンドへの転換に乗ったものであるとする。②また黒田総裁の公約である二年間で消費者物価の前年比2%上昇は達成絶望的である。

本書の論点の第2は人口と成長に関してである。著者は日本の低成長の本質的要因は人口減少と超高齢化にあると考えており、第4章に「1潜在成長率への逆風としての人口問題」~「4超高齢化社会の成長戦略」で人口と成長の議論を展開する。

その点で日銀の量的緩和・質的緩和は問題を見誤っているという。本書の中ではそういった観点からの記述が随所にあるが、基本は日銀の緩和策の影響分析である。

論点の第3として、第5章の日銀・異次元緩和から復帰するとき金融正常化の過程で起きる問題がある。第1の問題は、金利ゼロアクセルを踏み続ける状態から金利をあげるときに起きる、財政の利払い費増加、国債値下がりによる日銀の損失発生に対してどう対処するか、など。日銀が大量に保有する国債の処理ができるか、また、民主主義の枠組と中央銀行の役割の兼合いの問題がある。中央銀行は、有権者の選挙による請託を受けていない政治から独立した存在とされてきた。それにも関わらず、非伝統的金融政策は政治的な意味合いが強く、失敗すれば納税者負担も発生する。