『債務、さもなければ悪魔 ヘリコプターマネーは世界を救うか?』(アデア・ターナー著、日経BP社、2016年12月27日発行)

2007~2008年の世界経済危機、リーマンショックという大惨事の経験をきっかけとして、これを予想できなかった主流派経済学や金融政策への根源的批判の書である。

債務は株と違って返済されるのが原則であり、不確実性が小さい。しかし、破綻するとかなり大きな損失を被るという特徴がある。債務のこの特性が経済成長に大きな役割を果たした。銀行が債務契約でお金を貸すことにより、民間が信用を自由に作り出している。しかし、低金利だとレバレッジを効かせて利益を追求するため不必要に大きな信用を作り出す。

民間金融が作り出した過度な信用は、首都圏の土地のような再生産不可能な資産の購入に向かい、不動産の値上がりとなる。こうした過剰な債務が積み上がるのを放置した結果、債務の返済ができなくなり、崩壊したのが、日本のバブル崩壊である。日本は過剰債務の縮小でバランスシート不況となった。

米国では金融システムや信用供与の仕組みが複雑になり、トレーディング活動が活発になった。経済危機の前は、これらは望ましいことで金融システムの安定化に繋がるとみられていた。しかし、リーマンショックの米国、イギリス、EUでの金融危機は、それまでの考え方が誤っていたことを示した。

お金を借りて購入した資産の価値が縮小すれば、借り手は債務が不履行とならないように負債を減らす。このためには支出の削減をはかる。こうして過剰債務は経済の足かせとなり低インフレと低成長の罠にはまる。

金融危機では金融システムの破綻を避けるために公的部門が支援した。この結果は、公的部門の債務が増えるが、民間部門は債務の縮小に走る。これでは債務が民間から公的部門に付け替えられただけで本質的な解決にならない。

公的部門の債務は、ソブリン通貨を発行する政府では、不換通貨を発行して消すというマネタリーファイナンス対策が取れる。日本では政府の債務は2016年末時点でGDP比130%であるが、その半分を日銀が保有している。日銀は新たに国債の買い入れを行っているので、2020年代初頭には国債はすべて日銀またはそれ以外の政府機関の保有となるだろう。そうすればマネタリーファイナンスで消すことができる、というのが著者の主張のようだ。