『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』(加藤 文元著、KADOKAWA、2019年4月発行)

京都大学望月新一教授が2012年8月30日に発表した宇宙際タイヒミュラー理論(IUT理論)についての一般向けの本である。

IUT理論とそれによるABC予想の解決を主張する。「足し算と掛け算を分離する」という、まったく新しい新奇な思考方式に基づくので簡単に説明する「コミュニケーションパラダイム」が存在しない。

数学には、「学校で教わる数学」と「研究における数学」がある。学校では完成された数学を教わる。そこでは答えが分かっている。研究では答えは分かっていない。 

論文の価値は、新しいこと、正しいこと、興味深いことの3点を備えていることにある。

数学者は新しいことを見つけるときは、論理的に一歩一歩のステップを確実に踏みしめて新しいことに至るのではなく直感的に見つけることが多い(p.127)。自然な考え方、目標に向かって正しい方向を向いているか。

 ABC予想とは、ABCトリプル(a, b, c)についての予想。互いに素な自然数a, bがあり、a+b=cである。d=rad(abc)とする。(dは、abcの素因数分解に現れる素数の、相異なるものの積)。ほとんどの場合、dはcよりも大きい。

ABC予想

任意のε>0に対して、c>d1+εとなる組(a, b, c)は、高々有限個しかないであろう。

数学者は、予想を立てて、それを証明する。予想は特別なことではない。

abcトリプルのdの計算は数学的な規則に則っているが、結果はバラバラである。素因数の気まぐれ。これは足し算と掛け算の結果を比べるから。

IUT理論では数学的舞台を複数考える。異なる舞台のピースをはめるテータリンクという概念を使う。舞台間の通信は対称性=群を使う。複雑な構造をもつ群による遠アーベル幾何学を通信に使う。