『危機と人類 下』(ジャレド・ダイアモンド著、日本経済新聞出版社、2019年10月25日発行)

下巻では、ドイツの再建、オーストラリアの変化について述べ、現在進行中の危機として日本、米国について述べる。

ドイツが東西に分割され、そして再統合された近代の歴史は学ぶべきところが多い。東西ドイツで生まれた生活水準と経済力の差は、東ドイツの人々が自分達の生活を向上させるために懸命に働くことをしなかったため(p.16)と思うが、経済の奇跡と呼ばれる経済回復(p.19)で差がついたのかもしれない。1961年ごろにはイギリスより西ドイツが繁栄していたという(p.19)。

 ニュルンベルク裁判や連合国による非ナチ化は勝者の裁きであって、ドイツ人が自ら裁いた訳ではない。当初はドイツ人自身はナチスを追及できなかった。1958年西ドイツにおいてナチスの犯罪追及機関ができた(pp.22-23)。フリッツ・バウアー「ドイツ人はみずからを裁くべし」(p.27)、「善悪の判断の基準は一人ひとりがもつべきであり、政府に左右されるものではない」(p.25)。

1968年の抗議活動は暴力的で失敗したが、思想の多くは主流派に採用された(pp.28-33)。権威主義からリベラルへ。

ヴィリー・ブラント外交政策:否認から国交樹立へ。1969年東ドイツと条約締結。1970年ワルシャワ・ゲットーで謝罪(p.38)。その後の政権が踏襲し、東側諸国と和解を図る。東ドイツの終わりの始まり(p.39)。

 1989年5月ハンガリーオーストリアの国境の柵が撤去される。9月11日東ドイツからチェコハンガリー経由で西へ脱出する。11月9日西ドイツへの旅行許可(p.40)。

西ドイツの首相はみな現実的で政治感覚が優れていた。外交政策ビスマルクの言葉「神が世界史のどこを歩んでいるか、そしてどこに向かっているかをつねに見極めよ。そして、神の衣の裾に飛びつき、できる限り遠くまで振り落とされぬようにせよ。」に従っている(p.46)。

第8章は日本の現代の問題である。

強みは経済(世界第3位)だが軍事費の負担が少ないのは問題かも(p.114)、人的資本である。問題点は国債発行残高が巨額なこと、女性の役割に問題、新生児が少ない・他国と比べて婚外子も少ない(伴侶を見つけられない)、高齢者が多く、移民が少ない、中国と韓国との関係が悪い(pp.132~136)、自然資源の管理に非協力(pp.136~141)。

第9章はアメリカ。優位性は富と地理、社会的流動性、移民。問題は政治的な妥協が衰退しており、妥協の拒否がエスカレートしていること。議員のみならず、アメリカ人全体が非妥協的になっている。不寛容・暴力的言動が増えている。電子的コミュニケーションが増えたことが原因かもしれない(p.181)。