『AIには何ができないか データジャーナリストが現場で考える』(メレディス・ブルサード著、作品社、2019年8月10日発行)

著者はコンピュータ・テクノロジー文化に懐疑的である。明るいテクノロジーの未来がすぐそこまで来ている、というのは思い込みにすぎない。問題点は:

アイン・ランド能力主義

・男・白人が有利な社会であり、文化的に偏っている。

・テクノロジー至上主義、テクノロジーに対する手放しの楽観。使われ方に疑問をもたない。テクノロジーの創造者は市民の安全や公共の利益を軽視する傾向がある。

・コンピュータの決定は、人間の決定より優秀あるいは公平であると考えている。(そんなことはない)

・データだけで社会問題を解決できると信じている。(そんなことはない)。

本書ではテクノロジーにできることの限界をまとめている。

コンピュータサイエンティストの業界内では、汎用型AI(ハリウッド版AI)については、すでに1990年代に見切りが付けられている。機械学習は特化型AIである。

データは社会的に構築される。すべて人間が作る。p.37

Eliza, Siriは似ている。用意された応答はプログラマの想像力の範囲内。p.54

AlphaGoは知的ではない。過去のデータを使って勝てる確率を計算し、力任せにプロ棋士を打ち負かすのみであり、意識があるわけではない。p.71

アルゴリズムの説明責任報道:プロパブリカによる「機械のバイアス」。裁判所の量刑判断に用いられているアルゴリズムにはアフリカ系アメリカ人に不利になるバイアスがかかっていることを発見した。COMPASというアルゴリズムで、逮捕した人物が将来的に犯罪を犯す確率を予想しているだと。p.78

フィラデルフィア学区。生徒が州の標準試験(PSSA)を突破できない。教科書を買うお金がなく、教科書が揃わないのが原因。教科書があるかどうかのデータも正しくない。データベースには0冊のはずの教科書が段ボールに24冊もあった。p.100

子供にiPadを与えるとすぐになくす、壊す。教科書の寿命は5年は必要だが、デバイスの寿命は短い。管理も大変、値段も高い。紙の方がずっと効率的。p.110

デジタル技術の出どころはひとつのエリート集団。技術システムの設計は見直しが必要。例えば自分の庭の上に飛来したドローンを撃ち落としたトラブル話がある。裁判所は、所有地の上をホバリングするドローンを撃ち落とす権利はあるとした。pp.118-120

ミンスキー世代の創造性あふれる無秩序の遺伝子が現在のテック業界に伝わっている。p.129 コンピュータサイエンスには数学のコミュニティのバイアスが受け継がれている。p.138 

機械学習タイタニック号の生存者を予測する。DataCampのタイタニックチュートリアルのデータセットを使う。97%の精度で生存を予測できるが、しかし、生存を決定するのはできない。

自動運転車はコンピュータの本質的限界をめぐる。DARPA2007年グランドチャレンジに挑戦するベン・フランクリン・レーシングチームの自動運転車で死ぬ思い。しかし、エンジニアは命に無関心。知識ベースのアプローチ。優勝したのは知覚力を持たないアプローチの自動運転車。自動運転車にはさまざまな問題がある。整備の行き届いていない道、雪道、雨・雪・埃によるレーザー光線の乱れなど。p.242 テスラの自動運転は未完成。2016年5月テスラ自動運転の初の死者は交差点を曲がろうとした白いセミトレーラーを認識できずに、トラックの下に潜り込む。p.244

スタートアップバスでハッカソン体験。ハッカー達の共有する認識は、ハッカソンで有益なものが生み出されたことは一度もない、というものだ。ハッカソンはスポーツイベントである。P.291 とはいえ、参加体験は貴重だ。ソフトウェア開発は、本質的に工芸であり、ほかのさまざまな工芸―木工や吹きガラス―と同じように、熟達するには長い時間を要する。p.306

Story Discovery Engineの開発。Bailiwickプロジェクト。

本書の著者は自分でプログラムを書いて、実践しながらの話を読み物としても面白く書いている。なかなか貴重な人材である。