『アジア経済とは何か 躍進のダイナミズムと日本の活路』(後藤 健太著、中公新書、2019年12月25日発行)

21世紀のアジア経済はグローバル・バリューチェーンの時代(p.ii)。アジアの都市での生活パターンは先進国と類似する。都市部と農村部の格差が大きい(p.v)。

 戦前の日本にとってアジアとは中国であった。しかし、1949年に共産党支配の中国ができたことで中国と日本が切り離された。東南アジアへの傾斜が始まる。p.22 日本の戦後賠償=経済協力という図式であった。20世紀は雁行型の発展。

1985年プラザ合意による日本企業の海外展開。円高対策のため、日本企業のアジアへの直接投資で雁行形態がより深まる。pp.31-32 1980年代から20世紀のアジアの国間での産業構造の国際転換を説明する。直接投資FDIが大きな要因となった。

雁行形態は先進国と途上国の分担から見ているが、プロダクトライフサイクル論もある。ライフサイクルによって競争相手が増えることから競争力維持のために部分的に国外に移転するという論。

1978年の改革開放以前、中国はアジアでの存在感がなかった。改革は市場経済の導入、開放は経済特区の設置と対外開放。天安門事件を経て縮小、1992年南巡講話で再び。p.44-46

2017年世界の自動車販売台数は9680万台でうち40%がアジアで販売された。2912万台は中国で世界の30%。第2位は米国で1758万台、第3位は日本523万台。pp. 53-54

2017年世界のGDPに占めるアジアの割合は27%。p.56 一人当たり名目GDPは、マカオシンガポール⇒香港⇒日本(4位)⇒韓国⇒ブルネイ

1984年から1990年のアジアの実質経済成長率は5.74%。日本は4.97%。中国は8.84%。2011-2017年は同4.59%、1.31%、7.23%である。中国の成長率は常時高い。成長率と所得水準は逆相関がある。p.64

アジアの輸出構造:1990年アジアの輸出は世界の18%。日本はアジアの50%以上で、輸出は北米に向かっていた。2017年は同31%、アジアからアジアへの輸出が増えた。中国はアジアへの輸出が少ない。日本、ASEANから原料、資材・部品が中国に集まり、そこで製品化して世界に輸出される構造がある。

 FDIの第一の要因は、輸出入に関わる費用の削減・市場へのアクセス。第二の要因はコスト削減である。FDI受入国2018年1位は米国、2位中国、3位香港、日本は圏外。日本はアウトバウンドは大きいがインバウンドが極度に少ない。p.81

グローバルバリューチェーンの時代。昔のMade in Japanは垂直統合である。また自動車などのように擦り合わせが必要なものは統合化=フルセットで現地生産する。しかし、現在は、モジュール型が多くなっている。そして中身の部品はさまざまな国で作られる。ブランドは日本企業でも生産地はMade in China、Made in Thailandなど。Made in ** とは**で組み立てたということに過ぎない。p.98

フラグメンテーション=工程と機能の分断。統括主体が付加価値が高く、優位となる。バリューチェーンの時代には、コアコンピタンスの確立と、他の工程では企業間の関係構築力が重要。p.104 21世紀にグローバルバリューチェーンが成立したのは工程間リンクが簡単にできるようになった事情がある。自由貿易化、国際物流コスト、インターネットの進展がその要因である。

アグロメレーション=フラグメントされた工程を担う企業が集約する。p.110

貿易は異なる産業間の垂直貿易から同じ産業内の水平貿易に変わる。2017年アジアの域内貿易は部品と加工品の貿易比率が65%となる。p.112 消費財は13%(欧州は31%)。欧州では差別化された消費財の交換貿易なのである。

外部化の戦略軸はオフショアリングとアウトソーシングの組み合わせ。ガバナンスの方式は主導企業による組織化の程度と、サプライヤーの力の関係という二つの軸がある。

モジュラー化。深圳の華強北(ファーチャンペイ)、ホーチミン市のダイクァンミンに代替可能な汎用部品の集積を観る。p.134 擦り合わせ(インテグラル)から組み合わせ(モジュラー)へのアーキテクチャ転換で産業の再編が起きた。p.138 モジュラー化されると代替可能性が高まる。

スマホは2019年第一四半期:サムソン23%、ファーウェイ19%、アップル12%、シャオミ9%、ヴィボ7%、オッポ7%。アジア企業がスマホ市場を席捲。p.145

アジアにおける日本のプレゼンスは、1988年がピークで78%、2018年には21%に低下した。p.153

バリューチェーンでどういう地位を占めるか。現地にものを売る場合は、現地企業に強みがあることも考えるべき。p.156

インフォーマル経済は無視できない。インフォ―マル雇用比率、日本は16%、中国53%、インドネシア80%。

格差指数:タイル尺度(Theil Index)。アジアの格差は、国間よりも国内格差が広がっている。p.181