『アメリカの制裁外交』(杉田 弘毅著、岩波新書、2020年2月20日発行)

本書は読むとアメリカの制裁外交について、全体をうまくまとめて整理した本だ。前書きに「金融制裁も自らの痛みを伴わずに、相手にできるだけ多くの犠牲を強いるため、相手に与える負のインパクトへの思いが足りないのではないか」とある。本書を読むとまさにその印象を強くする。 

第2章経済制裁とその歴史を読むとかつては戦争の一手段としての性格が強かった。国の制裁は昔からで太平洋戦争はABCD包囲網、特に1941年8月に始まった石油の全面禁輸が重大だったが、それも制裁の歴史の中に位置づけられる。(p.32) 

最近では、金融制裁が強力な手段になっている。2014年には欧州最大の銀行であるBNPパリバスーダンキューバ、イランのために行った送金業務が米国の制裁法違反とされて89億7千万ドル(9422億円)もの制裁金の支払いが求められた。(pp.124-128)こうしたことができるのはドルが基軸通貨になっているからで、ドルの決裁や米国の金融システムを使えなくなれば金融機関にとっては死刑宣告に近いので従わざるを得ない。(p.39) 

米国の捜査当局は国境を超えて摘発する長い腕をもつ。ファーウェイの孟晩舟の国際緊急経済権限法(IEEPA)違反はその一例。孟とファーウェイの罪は、銀行に対する詐欺、米国に対する詐欺、対イラン制裁違反、資金洗浄。 

第10章 制裁に効果はあるかは、面白い。トランプになってから制裁が特に増えている。(pp.188-189)しかし、支離滅裂になっているために効かなくなっている。