『感染症 広がり方と防ぎ方』(井上 栄著、中公新書、2020年4月25日増補版発行)

感染症対策には、病原体伝搬経路を知っておく必要がある。居住環境を清潔にすることで伝染病が減ったが、咳でうつる新型ウィルスと性交でうつるエイズウィルスは居住環境を整備しても伝搬を抑えられない。

2003年のSARSは中国広州市から香港へ来た患者がMホテル9階に泊まって、ホテルに泊まっていた他の客9人と9階の投宿者を訪問した若者1名に感染した。これはWHOの調査でホテルの床にウィルスの断片が発見された。香港九龍にある4つ星ホテルだが嘔吐した吐物が乾いてウィルスが舞い上がって感染したという仮説が出された。

香港アモイガーデンの水洗トイレの排水管経由で発生した埃でも300人が空気感染した。

SARSは、中国、香港、台湾を除いて、カナダ、シンガポールベトナムで多かった。この3国では院内感染が多かった。医療従事者が世界平均21%だったが、上の3国は40%を超えていた。日本では感染者が出なかった。これはなぜか。SARSは全身性で糞便で感染した可能性がある。手で握手しない、箸で食べ、手で食べない。土足なし、手洗いなどが原因か。

ウィルスは細胞ではなく、細胞である最近の1/10のサイズ。小さいウィルスほど丈夫。環境温度が高いほどウィルスは壊れやすい。日光があたると紫外線で壊れる。人間が咳・くしゃみをしたとき飛沫が出る。飛沫は直径10マイクロメートル超の水滴で患者の1メートル以内の床に落ちる。

ウィルス伝染病は居住環境の清潔化に伴って軽症化した。

ウィルスの感染経路は入り口、出口、媒体で考える。空気媒介だと水痘と麻疹。結核や麻疹はN95マスクが必要である。

ノロウィルスは嘔吐下痢症で糞便でも感染する。老人ホームで良く起きる。ノロウィルスは小腸粘膜の細胞でのみ増殖するが、免疫後の持続期間が短いので何度でも感染する。安定性が高いので下水処理場でも破壊されないで海へ行く。カキは1時間に20リットルの海水を取り込み、ウィルスが中腸腺に凝縮される。そのカキを生で食べると下痢が発生する。カキは人があまり住んでいない産地のものが安全である。

細菌は人体のみではなく、体外でも栄養分のあるところで増殖する。食品は細菌の培地。

新型ウィルス:

①米国に定着した西ナイルウィルス。蚊⇒鳥⇒蚊のウィルス増殖サイクル。人にも感染する。米国で2006年4269人、死者177人。

②野生動物から人にうつり、その後人から人へ。(新型コロナウィルス)

特殊病原体ブリオン:BSE牛海綿状脳症

新型インフルエンザ:インフルエンザウィルスの遺伝子はRNAで変異が起きやすい。ウィルス粒子外側の蛋白質は2種類ありヘマグリチニンHとノイラミニダーゼNである。Hは16種、Nは9種ある。野生のカモはすべて持つが病気にならない。

1918年のスペイン風邪は、世界で2000~4000万人が死んだ。ウィルスH1N1は全身感染ではなかったは肺胞で増殖していた。通常のインフルエンザウィルスは肺胞では増殖しない。肺胞で増殖すると溺れたのと同じになる。基本再生産数は2.9と計算された。1957年のアジア風邪H2N2は1.7。対策はタミフル備蓄とワクチン。

2006年6月コロンビア大学で公衆衛生関係者50人があつまる。井上氏はマスクについて講演。井上氏のスペイン風邪の再来を防ぐ対策案:国民全員にマスクを配る。インフルエンザウィルスの伝搬経路は口からだけであり、患者にマスクをしてもらうことで患者の咳の風速を下げ、飛沫の飛散量を減らす効果がある。70円のマスク、20円のマスク、5円のマスクで実験をしたところ、どれでも咳の風速を下げる効果は変わらなかったので、5円のマスクを国民全員に配る。予算は6億円で済む。

スペイン風邪は咳が強かったのではないかと推測されており、咳の風速を弱めるという点での提案になっている。

エイズ性感染症はコンドームで予防する。

(感想)本書では、インフルエンザウィルスは咳でうつるので、咳の強いウィルス株が生き延びると主張する。そして咳の弱いウィルス株は負けて消滅するという。しかし、新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)は、無症状(発症前)で感染するという点で、この観点とは違う新しい観点が出ている。SARSウィルスは無症状で感染することがなかったので、SARS-CoV-2は、SARSよりも進化したウィルスと言える。