『時を刻む湖 7万枚の地層に挑んだ科学者たち』(中川 毅著、岩波科学ライブラリー、2015年9月9日発行)

福井県水月湖の固定堆積物は75メートルにわたり、ボーリングで取得したコアには縞模様がある。縞模様は1枚が1ミリ程度の薄い地層で、1枚が1年にあたる。これを年縞というが、45メートル、時間にして約7万年分になる。綺麗な年縞ができる湖は、世界中でも他にはほとんどない。

この年縞が初めて採取されたのは1993年、SG93と呼ばれる。北川浩之はSG93を用いて、炭素14年代キャリブレーションを研究した。これは植物の死骸に残存する放射性元素である炭素14の残存量を用いて年代を測定する方法で5万年前まで遡れる。1940年代後半から50年代初頭にシカゴ大学のリビーによって確立された。しかし、元々の量が年代で均質であるという前提があるため、キャリブレーションが必要である。一番確実なのは樹木の年輪を数えて、その中の炭素14を数えてキャリブレーションする方法である。しかし、樹木では1万数千年までしか遡れない。北川はこれに目を付け、SG93でキャリブレーションすることを目論見た。4万枚の年縞を数え、そこに含まれる葉の炭素14を測定する。1998年2月20日サイエンス誌に結果を発表。大きな注目を浴びるがキャリブレーションの標準に採用されなかった。そのときはカリコア海盆のデータが採用された。

SG93の素材としての質、年縞の数え方の問題を解決しようとしたのが、著者のグループである。素材の質とは、コアの接続の部分で失われる未回収部分。数え方は一人の研究者のみに依存したという問題である。

素材の質については、異なる接続場所をもつコアを複数の場所で採取して失われる場所をなくすという方法で解決。2006年8月11日最終的にSG06を得た。数え方については、ドイツとイギリスの研究者で複数の方法で数えていくという方法で解決を図った。葉っぱの抽出は困難で数が増やせなかったが、北川のデータを統合して数を増やした。

残りの問題として縞を数える方法は誤差が累積することがある。これを解決するために、鍾乳石データを用いてベイズ統計モデルで検証した。2012年3月に年代目盛が完成し、SG06yrBPと名付けられた。2012年6月28日のサイエンス誌に論文を発表。7月6日のIntCalグループの会議で水月湖データの採用が決まった。7月12日の世界放射性炭素会議で発表され、総会で水月湖データを中心にIntCalを更新することが支持された。