『絶望死のアメリカー資本主義がめざすべきもの』(アン・ケース、アンガス・ディートン著、みすず書房、2021年1月18日発行)

20世紀は健康が改善した世紀。米国は1900年から2000年までの45~54歳=中年白人死亡率は1900年には10万人あたり1500人(1.5%)、2000年には400人(0.4%)に減少した。しかし、20世紀の終わり頃から中年非ヒスパニック白人(USW)の死亡率が上がり始めた。この逆転現象は、世界の他の先進国では見られない。米国でもヒスパニック、黒人の死亡率は下がっているので、USWのみの現象である。

USWの死亡率の増加が多いのは、ウェストバージニア、ケンタッキー、アーカンソーミシシッピ州で、教育水準が国の平均より低い。カリフォルニア、ニューヨーク、ニュージャージーイリノイ州ではUSWの死亡率が落ちた。これらの州は教育水準が高い。

USWの死因で1999年以降上がり始めたのは、重要なものから、事故または意識不明の中毒(ほぼすべてが薬物の過剰摂取)、自殺、アルコール性肝疾患と肝硬変の順になる。本書ではこの三つを絶望死と呼ぶ。他に心臓病死の減少傾向が止まっているという現象もある。

若い白人でも同じような傾向がみられる。

学士号をもつか、持たないかという学歴別に分けると歴然と差がある。2017年に25歳以上アメリカ人の33%が4年制大学の卒業証書以上をもつ。学士号をもつと賃金が高く、失業率も低い。企業でも学歴の高低で分断される。

20世紀末から、USWの男女とも絶望死による死亡率の差が学士号を持つか持たないかで年々広がっている。学士号があればほぼ横ばいだが、学士号未満だと絶望死による死亡率が高く、しかも年々増加している。さらに学士号未満では生まれた年が近年になるほど死亡率が上がり、その上昇も大きい(p.62)。

健康が悪い、痛みがあるという報告も類似の傾向がある。

学士号未満の自殺率は高く、年々上がっている。1945年生まれでは差が無かったが、1970年生まれでは歴然と差がある。飲酒率は高学歴が高いが、飲酒時の平均杯数は低学歴が多い。

オピオイドが浸透した。痛みに対する耐性が無くなった。オピオイドによるエピデミックはアメリカの特徴だ。

低学歴層は仕事の質が低下し、結婚していない・できないものが多く、協会に行かないものが多いなど生活の違いも大きい。

命をむしばむアメリカ医療(第13章)。米国は先進国で一番医療費が高いにも関わらず、先進国では一番平均寿命が短い。

※米国の医療システムはアメリカ経済の寄生虫だと。ここまでダメなシステムを変えられないとは情けない。

※本書は、死亡率という統計から調査を開始して原因を探っているわけだが、USWに米国のマイナス面が集約されているという話は、これまでに読んだ次の本でも共通している。

『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』(J.D.ヴァンス著、光文社、2013年3月20日発行) - anone200909’s diary

『ジェインズヴィルの悲劇 ゼネラルモーターズ倒産と企業城下町の崩壊』(エイミー・ゴールドスタイン著、創元社、2019年6月発行) - anone200909’s diary

『壁の向こうの住人たち アメリカの右派を覆う怒りと嘆き』(A.R. ホックシールド著、岩波書店、2018年10月発行) - anone200909’s diary