『わが青春の台湾 わが青春の香港』(邱永漢著、中公文庫、2021年5月25日発行)

あくまでも邱永漢氏の体験を通じてであるが、大正から昭和の前半にかけて日本がどのように台湾を支配していたか、そして戦争が終わって蒋介石が台湾に逃げ込んだときの状況、台湾が国民党支配の国になるまでの状態を理解できる。

日本人の側ではなく、台湾人の側から見た日本による支配についての貴重な体験記である。台湾人と朝鮮人の抵抗の仕方の違いもよく分かる。

1924年日本統治下の台湾に生まれ、東大卒業、台湾の2.28事件後、香港に亡命、1954年から日本に定住という経歴だけでも波乱の多い青春だったと想像できる。しかし、あまり悲壮感は感じない。

香港に亡命して居候1年、香港から日本に欠乏している物資を郵便小包みで送って商品として売ることで大きな利ザヤが稼げるということに気が付いたところから「金儲けの神様」の新しい人生が、スタートしたという。ビジネスの最初のアイデアはそのようなものだ。一つのヒントからお金を稼ぐことができるようになったのは自分自身の経験にも近い部分がある。「理財の点で機転が利かない」著者がチャンスをつかむことができたのは、運もあるが、なんとかして自力でお金を稼いで生活しなければならないという飢餓感・切迫感があるからこそだ。

こうした飢餓感・切迫感は自営業者や経営者のものでそれがあるからベンチャー経営者になれるともいえる。宮仕えや会社員ではもてない心構えだ。