『チャイニーズ・タイプライター 漢字と技術の近代史』(トーマス・S・マラニー著、中央公論新社、2021年5月25日発行)

近代中国における情報技術史で1840年代から1950年代までを扱う。饒舌すぎる。

アルファベット、音素文字、音節文字  vs 漢字=密義的文字

漢字の音、義、形の三要素に対し、技術言語学を提案する。

例えば、1890年代に作られたタイ語タイプライターは、スミス・プレミア・タイプライター社のダブルキーボード機であった。しかし、レミントンが同社を買収。1920年代にはタイ語もレミントンのシングルシフト方式のタイプライターとなる。レミントンが世界を席巻した。中国語に出会ったとき、社会的ダーウィニズム、すなわち中国語は現代的ではないとしてを批判する方向に進んだ。

常用、合成、代用。ウィリアム・ギャンブルの常用。1773年乾隆帝の出版事業。木版印刷。活字は使用頻度で2分類し、部首配列する常用漢字方式。ギャンブルによると、印刷に必要な文字数は儒教の四書が2328文字、五経が2426文字、など。常用と排除の境界は常に変わる。ポティエらは漢字をラディカル=構成部品に分解して再利用する分合活字を考案。マスクラン・ルグランの214のキーの表。分割する漢字と分割しない漢字がある。1860年代初頭、分合活字を電信に使う電信言語のアイデアが出る。これは代用である。しかし、中国語の電信ではこのアイデアは採用されなかった。1871年の電信コードは6800の常用漢字を『康煕字典』の部首・画数順で並べたものであった。

中国語タイプライターの発明?常用方式。デヴェロ・シェフィールドは4662の常用漢字を選んで同心円状に並べたタイプライターを作った。しかし試作品に終わった。1914年試作の周厚坤の中国語タイプライターは円筒に『康煕字典』の部首・画数順で活字約3000字を配置。漢字が格子状に配置されている文字盤から選択する。

祁󠄀喧による分合活字方式、1915年3月発表が対抗馬であったが、上海の商務印書館は周を採用した。

商務印書館は周の円筒に漢字を固定した方式は拡張性がないとして周の試作を製造せず、舒昌瑜を責任者として新しい設計をした。長方形の文字盤の上に漢字を配置する方式で、用途向けにカスタマイズできた。これは1917年から34年の間に2000台以上を販売した。タイピストという職業や産業が生まれた。商務印書館は1926年フィラデルフィア万博に出展、名誉賞を獲得した。

1921年レミントン社は表音中国語キーボード開発に着手。中華民国政府が注音字母を制定することでアルファベット表記が誕生した。しかし、これは中国語を表記するためのものではなく、教育用途であった。

日本では1871年カタカナ電信コード(いろは順)、1866年前島密慶喜に漢字御廃止之議奏上、ひらがな新聞(失敗)、1898年黒澤貞次郎のひらがなタイプライター、1901年同カタカナ版=和文スミスタイプライター。1873年臨時国語調査会の「常用漢字表」、1914年杉本京太の邦文タイプライター試作品完成。島田巳之吉の東洋タイプライター、片岡孝太郎の大谷タイプライター会社。1935年東芝。邦文タイピスト協会が1920年タイピスト誌創刊。1920年代は日本の製造業者と商務印書館の対立。軍事力と戦争により日本の業者が優勢となる。1930年代終わりから40年代初めは日本製タイプライターの中国への輸出の時代。日本タイプライター株式会社の「万能」タイプライターが主力機種。中国で海賊版が出る。

QWERTYキーボードで漢字を入力する。捜狗(sogou)ピン音入力方法、キーから部首を入力する方法。1940年代中頃、林語堂の「明快」中国語タイプライター。72個のキーが上部キー、下部キー、数字キーに分かれる。3つのキーを順番に押すと漢字を選択できる。漢字を配列する方法について=検字法問題から着想を得る。1912年の合併部首法から、林語堂は1918年漢字索引制、1926年親韻索引法、末筆検字法を発表。康煕字典を置き換えることを狙う。国民党、陳立夫の五筆検字法。1947年明快完成。レミントンで実演の際、動かず失敗。林の財政難と国共内戦共産党勝利で試作品のみに終わる。印字とヒューマンマシンインターフェイスの新方式に繋がった。

1950年代は、民国期以上の活発な中国語タイプライターの時代だったようだ。手書きと印刷機の間を埋める「打印本」(タイプ本)。一緒に現れがちな文字を自然言語クラスターとして漢字を配置して高速入力を達成。植字工の文字配置から始まる。予測変換への道。空間配置・言語的アプローチ。文字と隣り合う文字の中で、組み合わせて実在する二字の単語を作れるかどうかというヒートマップでみると毛沢東時代の活字盤は熱い。1980年代までに自然言語配列がタイピストに大人気となる。

検索と印字の境界がなくなった。