『なぜ、TokTokは世界一になれたのか? 成功の表と裏』(マシュー・ブレナン著、かんき出版、2022年7月19日発行)

TikTokというショート動画の共有アプリの成功物語。技術的に言うとアプリのU/Iやバックグラウンドのバイトダンス共有のレコメンデーションシステムが優れている。また、マーケティングはクリエイターの組織化・マネタイズ、果敢な広告宣伝が優れている。なによりも創業者のイーミンがぶれていないこと。そして優秀な人材を金を投じてでも集める姿勢がスゴイ。ライバル会社のエンジニアを給与を少し上げて引き抜くことも辞さず。なかなか大した戦略家である。

要所に中国市場における企業間の戦いの厳しさが出てくる。米国では競争相手を模倣することが少なく、差別化競争を挑むので、競争圧力をあまり感じない。これに対し、中国では恥じることなく模倣で競争するので、同業者間の熾烈な競争が起きる。日本市場でも事情は似ているが、中国の起業家はよりアグレッシブなようだ。

いまは、米国と中国の対立という政治的・地政学的な要因で中国企業は不利だが、こうした要因がなければ、GoogleFacebookといえども安心できないのではないだろうか。

著者のマシュー・ブレナンはなかなか取材を良くしているようだ。単にバイトダンスだけの成長物語ではなく、スマホアプリの盛衰、なぜ成功したか、失敗したかなど、全体の事情をよくまとめている。業界事情を知る上でも欠かせない。優れた本である。