『デマの影響力』(シナン・アラル著、ダイヤモンド社、2022年6月7日発行)

ハイプとは感情を刺激する広告。フェイスブックで感情を刺激するメッセージは投稿を促す。感情を広める。(p.292)

Twitterで2014年2月~3月にかけての2か月間、部分的に真実・部分的に嘘のニュースの拡散が急増した。クリミアの併合が起きたタイミングである。クリミア併合が終わるとなくなってしまった。

2019年4月「モラー報告書」にはロシアがハイブ・マシンを利用して2016年のアメリカ大統領選挙を操作したことが書かれている。ロシアのインターネット・リサーチ・エイジェンシー(IRA)がSNSに偽アカウントを作りフォロワーを集めた。偽アカウントでフェイクニュースを流した。主要な激戦州の少数ながら効果の高そうな有権者に的を絞ってフェイクニュースを流す作戦。

はしかワクチン拒否はアンドリュー・ウェイクフィールドの『ランセット』誌への誤った論文が原因。フェイスブック上での反ワクチンのフェイクニュース拡散。情報源は少なく、わずかな反ワクチンページで上位投稿の多くが占められる。SNSは似たような人が結びつきの強いネットワークを構成する傾向があり、エコーチェンバーになる。

Twitterのニュースの包括的データベースからニュースのリツイートの流れ=カスケードを作成する。フェイクニュースは真実のニュースよりも遥かに速く、広範囲に広がる。フェイクニュースを発信する人のほとんどはフォロワーが少なく、フォローする人も少ない。なので、フェイクニュースが広がるのはニュースそのものの力による(p.98)ボットの力が大きい。初期の段階ではボットがリツイートする。ボットのツイートには、トランプのような有名人のアカウント名を含む。それをさらにリツィートするのは人間である。

新規性があると驚き・嫌悪感があり、リツィートしやすい。

ディープフェイク:本物そっくりの偽の映像や音声を作り出す技術。GAN:敵対的生成ネットワーク。

PYMK:知り合いかもアルゴリズム。PYMKは閉じたネットワークを作りやすい。クラスター内の人間関係は濃くなり、内部での情報伝達は速くなるが、クラスターを跨ぐ情報伝達は遅い。フェイスブックの急成長と政治的な分極化が進んだ時期は気味が悪いほど一致している。

コンテンツの供給量が増えるとハイブ・マシンはコンテンツに優先順位を付ける。フィード・アルゴリズムは何をいつ知るかの大部分を決めている。予測モデルによってコンテンツにユーザー毎の適合性のスコアを与える。コンテンツに対する、いいね、シェア、コメントなどが行動。過去の行動から、コンテンツに対する行動を予測する。判断基準は、投稿者、何に対するコンテンツか、動画があるか、など。

「いいね」はドーパミン報酬系が活性化する。ソーシャルメディア・メッセージへの脳内反応から、行動変化、シェアするかどうかをかなりの精度で予測できる。ハイプ・マシンの力の源は人間の脳の性質である。(p.200)

ネットワーク効果:直接の効果は、つなぐことで生まれる価値。これにより、質的に劣るネットワークであっても先行することで勝つことがある。

フェイスブックがなぜマイスペースに勝ったのか? フェイスブックは大学というニッチな市場から入った。ローカルなネットワーク効果が大きかった。社会的な繋がりが強く、近接性が高いユーザーだ。マイスペースは誰でも参加できたためか、ユーザー間のつながりが緩かった。

ハイブマシンのエンジン。人々の行動を変える力をリフトという。メッセージの引き起こした行動変化がリフトである。どのメッセージがどの程度行動変化に貢献しているかを調べることをアトリビューション分析という。ハイブマシンのリフトを調べるには、他の要因が同じである集団で比較する。このためには、無作為抽出、または自然実験が必要。

コンバージョン率:モノの広告を見てサイトを訪問した人のうち、実際にモノを購入した人の率。

デジタルマーケティングは、ソーシャル広告、ディスプレイ広告、モバイル広告などのマルチチャネルを使う。こうしたチャネルを統合し、マーケティング活動を最適化するには統合デジタル・マーケティングを使う。ディスプレイ広告を見た人は、検索する可能性が高まり、検索クリック率やコンバージョン率も上がる。ディスプレイ広告と検索広告には相乗効果がある。

いまだにマーケットをセグメント化して消費者に相対する考えは30年遅れている。現在は、個人に合わせたメッセージの発信を行う。

予測モデリング:個人レベルのデータを利用して一人一人の消費者のコンバージョン率を予測する。リコールは予測モデルで見つけたコンバージョンの可能性の高い消費者の数を、実際にコンバージョンの可能性の高い消費者の総数で割る。(カバレッジか?)プレシジョンは予測モデルで選び出した消費者の中に、コンバージョンの可能性の高い消費者がどの位いるか。(効率?)リコールとプレシジョンを組み合わせてROCという指標を作る。

実のところデジタルマーケティングはそれほど効果がない。リフトは過大評価されている。何もしなくてもある行動をとる可能性が高い人に、わざわざその行動をとるように促すメッセージを送る恐れがある。これは無駄である。人の行動の変動可能性が大きいので広告効果を精度高く調べるのは難しい。

P&Gは、デジタル広告を頻度からリーチに重きを置くように変更した。また、より的確な人に広告を出すようにした。こうして広告費を大幅に減らして、売上を増やした。

フェイスブックの2010年中間選挙、ニュースフィードのメッセージ一つに投票率を0.6%押し上げる力があった。2012年大統領選挙では0.24%。既に投票を済ませた人のプロフィール画像を加えると投票率が0.39%アップする。

ストラバで、グループ活動は一人の活動より距離が伸びている。自転車の平均走行距離は52%増、ランニングは20%増。これは相関関係である。スポーツは伝染するか? デジタルネットワークで天候の影響を見る。ランニングの伝染性は非常に大きい。

ウィーチャットでの「紅包」(ホンバオ)のやり取りはモバイル決済のかなりの部分を占める。ホンバオをもらうと他の人に恩送りする傾向がある。(p.290)

ネットワークターゲティング:個々のユーザーが興味を持ちそうな情報を予測して提供する。類は友を呼ぶ。ネットワーク上の隣人が既に製品を使っていると効果が大きい。

リファラマーケティング:ある人の嗜好は友達の影響で変わる。友人紹介という口コミ。ウーバーの友達紹介プログラムの報奨金で多額の収入があった例。テスラ。アマゾンのプライムなど。お人よしインセンティブ(紹介した相手が利益を得る)の効果が大きい。(p.303)

ソーシャルアドバタイジング:コンテンツを提供する際に、それに対する社会的評価の証明を同時に提供する。メッセージの説得力が劇的に上がる。食、ファッション、自動車、宝飾品などは「いいね」を押した友達の名前を出すと効果が大きい。クレジットカードやEC市場はあまり効果がない。

バイラルマーケティング:社会的影響に頼る。推薦を招待か通知かで変えてみる。招待の方が影響力は大きいが、通知の方がボリュームが大きい。ローカルネットワークの効果は大きい。

バイラルデザイン:口コミで影響を受けやすい商品をデザインする。キリスト教もその例。(p.321)

インフルエンサーマーケティングインフルエンサーは道具をうまく使いこなせる人。ポピュラリティ(人気度)とエンゲージメント(フォロワーを動かせる割合)で測る。影響力の大きい人は他人から影響を受けることが少ない。

反射問題:その場にいる人が一斉に傘をさし始めたとすると、お互いに影響を与え合ったからではないだろう。ダイナミックマッチド標本推定。他の消費者からの影響と消費者の同質性や交絡因子を切り離すことの重要性。

アテンションエコノミー:注目が価値を持つ。割安で注目を集められるチャネルで公告する。パーソナライズド広告が一般に価値が大きい。人口統計データによるセグメント化は時代遅れで、マイクロターゲティングを行うべき。トレンド独裁。トレンドになりやすいトピックは総じて、注意を引きやすく、衝撃的なもの、感情を掻き立てるものである。ロシア政府のボットネットによる#ReleaseTheMemoのトレンド化。

群衆の知恵と狂気。群衆の知恵が正しいための3条件:①群衆を構成する人々が多様である、②それぞれに独立している、③全員が平等に意見を言える。SNSはこれらを損なった。個人の判断が個人のものと言えなくなった。

評価について。先行する評価がその後の評価に影響を与える。特に先行する高評価がその後の評価を高める。(pp.391-392)星評価はJカーブとなる。

分極化:アメリカ人は均質な意見をもった二つの集団に分かれた。集団内では誰もが支持する企業、党が同じで、反対党に対する感情もほぼ同じ。フェイスブックが設立された2004年以降に差異が生じたようだ。(p.406)世界の多くの国で同じ現象が起きている。原因は何か? 現在のハイプマシンは群衆の知を支える3条件を損なうような仕組みになっている。