『見えない絶景 深海底巨大地形』(藤岡 換太郎著、講談社ブルーバックス、2020年5月20日発行)

世界の海を仮想潜水艇で順番に潜航航海するという趣向は面白い。しかし、やはり海底の話はちょっと地味である。プレートテクトニクスの話はある程度知っているので再び感がある。冥王代という、46億年前に地球が生まれてから40億年前までの話は、個人的には初めての話でちょっと面白いが、如何せん、検証可能な素材がなくまだ科学になっていないようだ。

このあたりは、『地球に月が2つあったころ』に通じるが、どうやら最近は、出来立ての地球に巨大な隕石が衝突して月ができたという説が有力になっているらしい。深海底の話から、冥王代に月が誕生するところまで飛躍するのは面白いと言えば面白いが。

『石橋湛山の65日』(保坂 正康著、東洋経済新報社、2021年4月8日発行)

昭和21年吉田内閣の蔵相となり、昭和22年4月の選挙で静岡県から当選するが、5月に公職追放。この間の記録をみると吉田茂の関与を否定できない。吉田茂という男は極めて卑劣という感を持つ。

石橋湛山という人物については本書を読むまであまり知らなかったが、言行を一致させ、軍部にもGHQにもおもねらず持論を述べてきた、という点で確かに立派だと思う。昭和14年8月31日東洋経済新報社本社在勤社員を集めて「今後言論圧迫来るも良心に反する行動を絶対に取るべからざること」の決意を述べ、それを実行したことに感心する。

また、官からの依頼で様々な委員会などの役職を務めたという点では官からも信頼されていたのであろう。彼が首相として長く勤めたならば日本の政治の歴史が変わったのかもしれない。

 

『21世紀の資本』(トマ・ピケティ著、みすず書房、2014年12月8日発行)

GDPはある国の国境内でその年に生産された財やサービスの量。GDPから減価償却を差し引いたものが国内純生産。それに外国からの純収入を足したものが国民所得である。

国民所得=国内算出(国内純生産)+外国からの純収入

国民所得=資本所得+労働所得

資本は非人的なものだが、特許など非物質的なものを含む。国富=国民資本は、ある国でその時政府や住民が所有しているすべての市場価値。ストック。

国民資本=国富=金融的+非金融的、国富=民間財産+公的財産=国内資本+純外国資本

β=資本ストック/年間の所得フロー

日本とイタリアはβが6以上、米国とドイツはβは5以下。公的資本はおおよそゼロである。先進国の資本ストックは、住宅資本と企業・政府の物的資本が半々になる。

資本主義の第一原則:α=r×β α:国民所得の中で資本からの所得の割合、r:資本収益率。この法則は定義にちかく、常に成り立つ。

ざっくりα=30%、r=5%、β=600%。

世界各国の比較では、購買力平価を使う。為替レートより安定しているため。国際比較プログラム(ICP)で推計しているが、誤差が大きい。

経済成長は人口の増加と一人当たりの算出の増加に分解して考える。例えば、2013-14年の世界経済成長率は3%だが、世界人口の成長率は1%なので、一人あたりでは2%を少し上回る成長率である(インフレを除く実質)。インフレの問題は大きい。特に1913-1950年の戦争で安定性が失われた。

国民資本=農地+住宅+他の国内資本+純外国資本

イギリスとフランスでは18世紀初めはβは700%程度、1910-20年に急減、1950年頃250-300%、2010年は600%。18世紀は農地が資本の2/3だったが2010年は数%。

イギリスは19世紀初頭のナポレオン戦争第二次世界大戦GDPの200%の公的負債水準となったが、最初は基礎的収支がプラスなのを利して100年掛かって縮小した。2回目は、1950年代と1970年代のインフレで負債を減らした。フランスはアンシャン・レジュームの公的負債は1797年の3分の2破産で公債がデフォルトした。フランスの第二次大戦の負債は年50%のインフレで消え去った。

ドイツはフランスに似ているが、戦前の外国資本が少ない。2010年頃は対外貿易黒字で外国資本が増えている。

米国は1910年-1930年がピークである。西欧のような谷がない。18世紀はβは300%強、但し奴隷の価値を加えると400%~500%になる。米国の奴隷を資本価値化すると1.5年分。 

(資本主義の第2法則)β=s/g s:貯蓄率、g:成長率

沢山蓄えてゆっくり成長する国は長期的には莫大な資本ストックを形成する。この法則は長期的にしか成立しない。数十年。他にいろいろ成立条件がある。

日本は1990年に民間資本が所得の700%に達した(バブル)。この記録はスペインが2007年~8年の危機直前に800%になることで破られた。スペインのバブルは2010年~11年に急激に縮小。資本/所得比率の計算はバブル検出に有効かもしれない。

所得格差は、労働所得=賃金と資本所得(資本の所有権から生まれる)の格差を合計したものである(定義)。この格差の相関は? 一般的に資本所得の格差は大きい。

1980年以降、米国では賃金格差が激増している。米国では資本所得が労働所得を上回るのは所得階級のかなり上の方である。特にトップ1%またはトップ0.1%の報酬が爆発的に増えた。スーパー経営者(大企業の重役で、仕事の対価として非常に高額の、歴史的に見ても前例のない報酬を受ける人たち)の出現が大きな原因である。

賃金格差は教育に関係が深い。また、最低賃金の影響が大きい。米国での賃金分布底辺部の格差は政府が決める最低賃金と連動している。富裕国毎に所得分配の変化は異なるが、米国、イギリス、カナダ、オーストラリアではトップ層への集中が大きい。大陸ヨーロッパと日本はそれほどでもない。後者では20世紀初頭と比べると格差は小さい。大陸ヨーロッパと日本で20世紀初頭から1945年までにトップへの集中が減ったのは戦争による資本への打撃だろう。

富の所有については相続税で調査できる。フランスが18世紀に遡って財産の保有を調べることができるが、1910年には国富の90%が上位10%によって保有されていた。201年には60%となった。英国、スエーデンも似ている。米国は1910年には80%であった。

こうした富の集中の原因は、成長率(g)より資本収益率(r)が高い(r>g)ことにある。資本収益率は歴史的に4-5%で安定しており、rは20世紀後半に年間3.5-4%になったがこれが最大で、21世紀には下がっている。古代から18世紀までは0.5%程度で、19世紀から20世紀に少し上がった。r>gの累積により社会が不平等になる。

歴史的には1900-1910年以前には資本所得の税率はほぼ0%、1950-1980年には資本所得の平均税率は30%である。これで税引前利益5%が税引き後3.5%になる。資本所得への課税は富の分配構造を変える。税制の変化の影響は大きい。

フランスの相続所得は19世紀には年間所得の20-25%あった。20世紀初めに激減し、1950年には数%、その後回復、1980年から加速。2010年で国民所得の15%。

相続と贈与の年間フローの国民所得比:by の定義式

by=μ×m×β

β:資本/国民所得比。資本は総民間財産

m:死亡率

μ:生存者一人当たりの平均財産に対する死亡時の平均財産比率。富の年齢分布に依存する。

レント(rent)は本書では資本が生み出すレント=資本所得=賃貸料、利子、配当、利潤、使用料。しかし、レントと不労所得生活者(rentier)は20世紀には軽蔑的な意味をもつようになった。資本市場はレントを生み出す。

 米国の大学基金の資本収益は規模が大きい(ハーバード、イェール、プリンストン)のように規模が大きいところほど高い。この3校の基金の実質収益率は10%超えている。基金残高1億円未満の498校は6.2%である。これでも平均よりは高い。

インフレの影響は資本の平均収益を減らすことではなく、再分配にある。インフレは投資されていない財産への税であるが、投資されている財産の価値は多くの場合インフレ率と同じように上がる。

 米・英・仏・スウェーデンの税収入/国民所得は、1910年頃までは10%、1980年頃までに増加、その後横ばいとなっている。米国30%、英国40%、仏国50%、スウェーデン52~3%。教育、保健、社会保証・年金の3つを国家が負担するようになった。

累進所得税の各国の最高税率は年代でかなり変化している。欧州・米国は第一次大戦前は数%が多かった。その後40-70%、1920年代後半に落ちて、25-50%、第2字大戦後60%-90%以上、1980年代にまた落ちた。p.521

累進相続税フランス革命相続税が導入されたが1901年まで完全比例制。1902年から累進性が導入された(5%)。イギリスは最大の相続財産に1896年から8%、1908年に15%となる。米国は1916年に導入され1930年代に70%になる。

米国と英国の没収的な累進課税:最高相続税率は1930-1980年代まで70-80%、1940年代の英国の最高税率は98%。今と正反対。1980-2010年は米英の最高限界所得税率30-40%。レーガンは28%の最低値。最高限界税率の低下が重役報酬の高額化を招いた。

資本税の提案。固定資産税と同じように、銀行、保険会社、金融仲介業者は管理している資産について税務当局に報告するので、それをもとに各人の資産一覧表を作って、個人に送付する。必要に応じて追加・訂正する。資本税と所得税は役割が違う。資産家にとって所得は資本のごく一部に過ぎない。一部に過ぎない所得税を累進的にしても意味が小さい。

大恐慌では中央銀行流動性を作りださなかったため連鎖倒産が多発した。その後、中央銀行の役割は最後の貸し手の役割を果たすことという合意ができた。

『ロッキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス』(春名 幹男著、KADOKAWA、2020年10月30日発行)

本書は主に米国で公開された資料や日本の裁判記録などをもとに調査し、分析した書である。独自のインタビューもあるが、インタビューは、みな、かなりの年月を経てからの記憶に頼るインタビューなので結論の強化という印象を受ける。本書は米国資料を何度も読み込んで分析した点が特徴だろう。

ロッキード事件が発覚したのは1976年、すでに40数年経過しているがいまだに記憶に新しい。この間、多数の本が出版され、いろいろな謀略説が提示された。本書第1部ではロッキード事件の発覚から裁判の経過までを説明する。いくつかの陰謀説も検証する。まず、ロッキードからの資料がチャーチ小委に誤配されたという誤配陰謀説を否定する。また、田中に対する三木の怨念と田中追及の執念を描き、三木陰謀説を否定する。ロッキード事件の背景になるロッキード社の経営とニクソンの支援、日本への売り込みなどを検討し、ニクソンに嵌められたという陰謀説も否定する。第2部では資源開発に対する日本と米国の協力関係があったとして資源外交陰謀説も否定する。

ロッキード事件の登場人物は大勢いるが本書のキーパーソンはやはりキッシンジャーだろう。1972年8月31日ハワイにおけるニクソンと田中の米首脳会談に先立って、キッシンジャーが駐南ベトナム大使エルズワース・バンカーに語った言葉の解釈が本書の目玉といえる。それは田中角栄による訪中・日中正常化にたいするキッシンジャーの怒りを表すものだという。

ロッキード事件の国内における捜査は米国との協定に基づいて渡された資料だったが、その資料は国務省が内容を確認して、日本に渡しても日米安保体制を不安定化しないと判断したものだった。資料引き渡しで米国の外交がダメージを受けないという判断は裁判所ではできないので、国務省が助言するという枠組みはキッシンジャーのメモにより構築された。結果、田中角栄は逮捕され、児玉誉士夫と児玉ルートは罪を逃れた。実際には児玉に渡った資金の方が遥かに多いにも関わらず。さらに本書はキッシンジャーの性格なども分析したうえで、キッシンジャーが田中復権をなくすために資料を意図的に選択した可能性が高いとしている。

米国CIAの黒カバン作戦(現金を政治家、政党に渡す)で資金を得た巨悪たちは結局罪を逃れたというのが本書の最終章だ。しかし、残念ながら最終章は資料が乏しいので推測に基づく部分が多く、説得力を欠く。だからこそ罪を逃れたわけだが。

ロッキード事件について、4,5冊読んだけど本書が抜群だと思う。 それにしても米国の大統領の周辺にかかる資料管理・公開の姿勢はすごい。やはり過去の資料や歴史の検討は未来を考える上でも大切なのだ。

『予測学 未来はどこまで読めるのか』(大平 徹著、新潮選書、2020年8月25日)

話題レベルの事柄を寄せ集めただけのざっぱくな本である。予測学というより予想学という方が適切ではないか?

『逆転の大中国史 ユーラシアの視点から』(楊 海英著、文春文庫、2019年3月10日発行)

ユーラシアの草原を中心にして中国を見ると、草原から下ったところにある狭い地域となる。中華思想は中国をすべての中心であると考えるが、ユーラシア史観からは反知性的であるとする。中国の歴史の中で、農耕民族の王朝は、前漢後漢、明の700年、遊牧民が支配した王朝は、隋、唐、元、清の700年なのだそうだ。

本書は、中国は漢民族を中心とする中華民族の国という概念は、中国共産党が作ろうとする歪曲された中国観であるということを主張する。

そのとおりかもしれない。

『アルツハイマー征服』(下山 進著、株式会社KADOKAWA、2021年1月18日発行)

家族性アルツハイマーの家系の話がイントロと最後に出てくるが、これを読むと人生が運に左右されていることを痛感する。運が良い人と運が悪い人がいるが、アルツハイマー家系に生まれた人たちも、そうでない人達と同じように幸せに生きる権利がある。

アルツハイマーの原因究明にいたる研究、研究に基づく医薬品の開発は非常に難しいということもよく分かる。研究者が研究の成果を上げられるか、医薬品の治験に成功するかどうかもまたかなりの部分で運が良いかどうかにかかっている。

本書の構想をスタートしたのは2002年であり、ちょうどそのころは研究の現場にはアルツハイマーは治る病気という熱気があった。その後、治療法が簡単ではないということがわかって本にまとめることができなかった。そして、2018年頃に見通しがついてきたという。本書は15年以上に渡る調査と取材に基づいているという。お手軽な出版の多い中で、本書は格別に重厚なノンフィクションである。

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