『「第二の不可能」を追え! 理論物理学者、ありえない物質を求めてカムチャッカへ』(ポール・J・スタインハート著、みすず書房、2020年9月1日発行)

200年もの間、多くの人に常識としていた信じられてきた結晶学の原理をやぶる準結晶の理論を発見する。ついで実物の探索、そしてそれがどこでできるか探索するというという果てしない知的冒険の物語である。

正20面体はどの頂点から見ても正五角形が見える。しかし、五回対称性は空間を埋め尽くせないと考えられていた。しかし、コンピュータシミュレーションをみると、拡張できそうだという予想からスタートする。これは超ハイリスクな研究テーマであった。

最初の法則の抜け道の部分は、理論的な抜け道を見つけた部分は、理屈だけで分かりにくく、つまらない本だなとという印象だったが、途中、実際の物質の話が出始めてから素晴らしく興味深く、引き込まれた。

実際にその物質が人工的に合成できることを想像したところ、実際に作り出した人がいた。最初に人工合成物から発見したのはダン・シェヒトマンである。しかし、スタインハートのチームは当初その研究結果を知らなかった。シェヒトマンが理論構築を依頼したのは別の研究者である。シェヒトマンチームの論文を見た著者たちのチームは慌てて理論論文を出す。

1999年自然界にあるかどうかの探索を行うが成果はなし。2007年イタリアのルカ・ビンディが探索に加わる。2009年1月2日カティアカイトのサンプルの中に準結晶であることを確認し、自然界にあったことがわかる。しかし、誰もそれが自然界にあったことを信じない。

これについての探索と論文掲載の過程がすばらしい。賛成派と反対派のチームを作り、徹底的に検討すると同時に、失敗を恐れずに科学的な検査を行う。これが科学の精神といえる。

その鉱物がカムチャッカで収集されたことを突き止めて、自分たちでチームを作りカムチャッカまで探索に行く。集めた試料から、その鉱物が宇宙で生成されたことを突き止める。

科学の世界においても、成功するのは強い意志、絶対にあきらめずに追及する心であることがよく分かる。一つの科学的テーマでも成功するには30年もかかるという。成功の哲学を伝える本でもある。今年読んだ最高の本の一冊といえる。