『高地文明―「もう一つの四大文明」の発見』(山本 紀夫著、中公新書、2021年6月25日発行)

発行日前に読み終えたのだが、久しぶりに日本人の著者による面白い本だ。日本の中学や高校の教科書に載っている大河のほとりに生まれた四大文明メソポタミア、ナイル、インダス、黄河ーという概念がどのように出来上がったのか、という疑問から説き起こす。

この四つの文明はコムギに依存しているが、コムギはメソポタミア原産らしい。食物や動物を自力でドメスティケーションしたということを文明の条件とすると、ナイル、インダス、黄河文明は基本文明ではなく周辺文明ではないか、という。

それに対して、著者は高地文明―メキシコ高地、アンデス高地、チベット・ヒマラヤ、エチオピア高地で生まれた文明ーを主張する。

栽培植物の原産地としてソヴィエトの農学者ヴィヴァロフは七大センター説を出した。つまり、①熱帯南アジア、②東アジア、③南西アジア、④地中海沿岸、⑤アフリカ大陸、⑥北アメリカ(中央アメリカ)、⑦南アメリカアンデス地域である。

中央アメリカではトウモロコシ、インゲンマメ、カボチャ類、カカオなど。アンデス地域ではジャガイモ、オカ、オユコ、アユなどの塊茎類が生まれている。

熱帯でもラパスのような高度4千メートルの高地は年平均気温が8.8度とそれほど高くなく、年平均気温があまり変化しない。さらに高度が高くなると寒冷になる。高地は疫病も少ない健康地でもある。

メキシコのアナワクと呼ばれる中央高地ではテカワン河谷で紀元前1万年から1万年渡って人が住んでいたあとを発掘。野生植物から栽培植物が中心になる歴史が解明されている。5000年に渡って野生のテオシントからトウモロコシへの進化の過程もわかった。紀元前150年前からはテオティカワンが興隆した。スペイン人に1521年に滅ぼされたアステカ王国も起こったが、トウモロコシが貢献した。

ティティカカ湖を中心とする中央アンデスでは、紀元前5000年頃、ジャガイモなどのイモ類が栽培化された。野生のイモは小指程度しかなく、また毒がある。毒抜きの技術が開発されたはずである。紀元前1500年頃から遺跡が増えており、これはチャビン文明、紀元7世紀頃ワリ文明、紀元1400年頃インカ文明が生まれた。またティティカカ湖畔に標高3800メートルのティナワク遺跡がある。ここは紀元前数世紀から紀元1000年頃まで栄えたらしい。ルキ・ジャガイモ(苦いジャガイモ)を生産し、水抜き加工をしてチューニョにする。これは長期貯蔵ができるという点で根菜類は長期保存できないという問題を覆す。インカ帝国はトウモロコシが支えたという説があるが、著者はジャガイモが主体であったという。

この他、チベットエチオピアの調査の説明もある。それにしてもなかなか面白い本である。