『歴史の逆襲』(ジェニファー・ウエルシュ著、朝日新聞出版、2017年5月)

本書はもちろんアメリカの政治学者フランシス福山『歴史の終わり』に対するアンチテーゼである。

『歴史の終わり』は東西冷戦の終結により、共産主義に対して自由民主主義が勝利したことは人類の歴史が自由民主体制へむかって収束しつつあること、それ以外の体制が敗北して、自由民主体制が最後に残ったことを意味するという見解である。

しかし、本書では、その後、最近になって起きていることをみると、歴史が再び動き出したという意見を示している。

第一章総論である。ポピュリズムの台頭・経済格差・大量移民といった多くの問題が噴出していることを鑑みると再び動乱の時代が復活するのでは無いかという見解を示す。

第二章は蛮行への回帰。これはISが生まれた経緯を辿る。

第三章は大量移民への回帰。現代の移民は第二次大戦時代のような政治的な物ではなく、自分の住む地域が内戦などの戦闘地域になり、生活できなくなった、ある意味では経済移民である。これに対して、1950年頃にできた世界人権宣言による難民救済の仕組では対処出来ないことを言う。

第四章は冷戦への回帰である。この主役はプーチン。ここで述べられているプーチン主権民主主義って本当にナチそっくりだ。

第五章は国家内の富んだ層と貧困層の格差の拡大である。富裕層の多くは、自らの努力で勝ち取った豊かさでは無く、過去の蓄積に基づき、スタートラインから、他の人と比べて豊かになる。不公平な豊かさが大きな問題という。

本書で述べられていることが、現在の国際・国内社会における非常に重要な問題であることに同意する。本書は、現代の民主主義と国家の問題点を整理した真に好著だと思う。