『第三帝国の興亡 1』(ウイリアム・シャイラー著、東京創元社、1961年刊)

第三帝国ナチスの時代である。

全5巻の大著である。本書・第1巻は、ヒトラーのナチが台頭し、ヒンデンブルグの後を次いで首相兼総統として権力を固めるまでを描く。

著者の強みは、同時代・場所で取材を重ねた経験と、同時に戦後の押収された資料を閲覧できたということである。こういう2つの側面で強みを持った著者は少ないだろうし、それを大著とした努力も素晴らしい。

本書を読むと、ヒトラーは決して一人では無く、かなり多くの仲間を持っていたということが分かる。また、通常の選挙でナチは得票率40%近くまで伸びたので、権力を取るまでにかなり多くのドイツ人に支持されたことも分かる。

一度権力の座についてからは、法律を自分に都合の良いように替え、国家の資産をつかって自らの支持基盤を強化し、競争相手を閉め出して、あっという間に独裁者となった。野望を持つ人間に国家の権力を与えるとどうなるか、ということを示す例でもある。

この無血革命のやり方は、ある意味では明治維新に似ていないこともない。

最後に残った対抗勢力としては、軍・特に陸軍があったのだが、SAを粛正して軍の首脳部の期待にこたえるなどは自分の野望のためには仲間を平気で粛正することも辞さない。

外部の人間にとっても、ヒトラーのことは、マインカンプなどで研究できたチャンスがあったはずなのに、早い段階で注意を払った人が少なかったのはやや不思議である。