『「こころ」はいかにして生まれるのか 最新脳科学で解き明かす「情動」』(櫻井武著、講談社ブルーバックス、2018年10月20日)

本書は、ちょっと固いが、内容は面白い。もう少し柔らかく書かれているとなお良かっただろう。

本書に掲載されている、ラッドの実験などを通じてみると、人間と他の動物の心の働きはかなり似ているようだ。深部のところでは、動物の心に組み込まれたのと同じメカニズムが働いてるということである。

しかし、人間の脳は、脳の中核の周囲に新しい機能がいろいろ構築されているようだ。

本書に解説されている仕組みを見ると、その精緻さに驚く。このような精緻な仕組みが長い時間をかけてできてきたことには仰天する。

星の進化もそうだが、宇宙の神秘の一つともいえそうだ。

本書の中で一番印象に残るのは、H.M.さんである。てんかん治療のため両側の内側側頭葉や両側の海馬の前方、海馬傍回、扁桃体の3分の2などを切除したことで、陳述記憶を作れなくなってしまった。つまり、新しい出来事を記憶できなくなってしまったという。

たぶん、これによって日常生活はほとんどまともにできなくなってしまったのではないか? しかし、H.M.さんについての記憶の調査によって、脳の中でいろいろな種類の記憶があり、様々な記憶の機能が脳の組織で分担されていることが分かったという。

医療の恐ろしさの一つの例でもある。