『壁の向こうの住人たち アメリカの右派を覆う怒りと嘆き』(A.R. ホックシールド著、岩波書店、2018年10月発行)

素晴らしい調査のまとめ。多民族・多宗教国家のアメリカならではの問題もあるけど、ルイジアナの環境汚染のひどさに関わらず、環境規制に反対するという矛盾がなぜ生じるか? ということが良く理解できる。

ただ、最後の部分のルイジアナ州でトランプが人気を集めた理由が、合理的には理解できない。トランプはニューヨーク生まれの富裕層なのに。共通項は感情でものを判断している、ということなのだろうか。

 左派の著者が、右派の心情を理解しようとするために社会学者としての調査を行った書のようだ。

米国は政治的感情の隔たりの底が深くなっている。感情的に類似する人が集まってコミュニティを作る傾向があり、ますます対立が深まる。p.10

人間の活動が環境変化に繋がると考える人は、民主党員では90%、共和党穏健派59%、同保守派38%、ティーパーティ主導者は29%。気候変動に対する見方は政治的考え方で決まる。p.11

右派がますます右へ行っている。p.12

青い州民主党支持、赤い州共和党支持。ルイジアナ州はその典型。

問題意識:なぜ、自分にとって不利な政策を掲げる党に投票するのか?p.16

右派は南部。南部の白人で右派が増えている。p.18

政治における感情がテーマのようだ:その人に取って真実と感じられるストーリー(ディープストーリー)。 p.24

ルイジアナ州パラドックス:深刻な公害に苦しむ人々が、公害をまき散らかす張本人を規制することに反対する。 p.32

アイン・ランドティーパーティ派のバイブルだとされている(!)

リー・シャーマンのパラドックス。 p.50 例)リーは環境保護支持者なのに環境庁廃止を支持する。政府に裏切られたと感じているから。個人的恨みのようだ。

バイユーディントに住むアレノ夫妻。家族十人以上が汚染された河川の影響で死ぬ。バイユーディントは石油化学帝国の中心。しかし、環境汚染を無くそうとは全く考えない共和党候補に投票する。信仰心によるようだ。また、州はいつだって弱者に厳しいと考える。p.76

 ルイジアナ州共和党候補2人の戦い。演説では2人とも問題に触れない。ルイジアナ州が全米で2番目に貧しく、州政府の予算の44%が連邦政府からの支援であるという矛盾に。p.84

感情の引火点:報われてしかるべき納税者、報われるべきではない税金泥棒=一つ下の階層。p.88

ルイジアナ州は環境汚染では非常に問題があるが、しかし、環境規制に反対する。どこでも人々の口から出てくるのは、仕事という言葉。仕事か綺麗な水か? どちらかを選ぶしかない、と思っているようだ。p.104

ルイジアナ州のロジック:仕事が増えれば景気が良くなり、政府の支援に頼らなくても良くなる。p.106 しかし、石油関連の仕事の量は少ないし、高度が技術の要る仕事はすくなくて、低レベルの仕事は外国からの労働者が担う。

全般に、汚染の深刻な郡に暮らす人ほど、アメリカ人は環境汚染に心配しすぎていると考える傾向がある。p.114

ソーシアルセキュリティ制度、メディケアは不要だが、受給者の半分以上は仕事を探していない、と考えている。p.162 連邦政府は、労働者から搾り取ったものを怠け者に与えている。p.163

ルイジアナでは協会が社会生活を支える柱の1本である。p.166 レイクチャールズ市7万人に100軒の教会。人口700人について一つの教会がある。ほとんどの教会は11献金(収入の10%の献金)を求めている。

サンフランシスコ市では市が公的サービスを提供するのに、ルイジアナでは協会が同じ事をする。p.172

米国福音派教会はアメリカの有権者の4分の1を占めるキリスト教徒3000万人の声を代表する。議員の多数は自然保護に意識が低い。福音派教会のトップ達はアクトン宗教・自由研究所のキャルビン・バイスナー博士を、自然保護について指導者とあがめている。p.175 博士は旧約聖書を引用する。絶望を教会が救う。

FOXニュースが保守の情報源。p.179

ルイジアナには、環境汚染、健康問題、教育問題と貧困がある。しかし、それを正面から認めていない。p.187 すべての根っこは構造的忘却にある?

ディープストーリー。シンボルという言葉を使って感情が語る物語。p.191

アメリカンドリームの行き詰まりが問題? p.199

アメリカンドリームを待つ列の並び。その列の前に割り込む異邦人。p.300

1950年以降に生まれた人は、アメリカ史上初めて障害に渡って、下降した世代だ。 p.200 次から次へと別の集団が列に割り込んでくる。p.211

以前は、労働者と経営者の闘争⇒しかし労働者の職場が海外に移転してしまった。⇒富めるものとそうでないものの戦い。p.212

ティーパーティは、矛盾している? 矛盾が表面化するか? p.216

ディープストーリーを生きる人の中でチームプレーヤー派。問題があることを知りながら受け入れる。p.237

自然をたいせつに思うのに、自然が傷つけられた過程を知ろうとしないのはなぜか? p.243 工場労働者の板挟み。環境汚染に罪悪感があるが、従業員として黙視する。それを周囲が尊重して黙っている。連邦政府への不信感もある。

ティーパーティはディープストーリーを反映した活動。p.293

南北戦争の再来?p.296

戦線布告のない階級闘争p.309

トランプは感情に訴えた。p.320