『脱「中国依存」は可能か』(三浦 有史著、中公選書、2023年1月10日発行)

中国の世界における経済的プレゼンスは米国に比肩する。輸出入貿易額は米国を上回り、中国の低所得向け対外融資は2020年でG7合計の4倍である。中国の自動車販売台数は米国の1.7倍である。

日本の対中貿易は2021年には対米貿易の1.7倍となった。

しかし、中国依存に対する不安は高まる一方だ。経済面ではゼロコロナ政策による生産・物流機能の低下はサプライチェーンを通じて世界中の工場に波及した。また、不動産バブル問題、過剰債務など不確実性が大きい。政治的にも対立が先鋭化している。

バイデン政権のサプライチェーン強靭化:2021年2月大統領令、6月に報告書公開。日本、台湾、韓国、インドなど同盟国・友好国とのフレンドショアリング。2022年2月経過報告書で成果を報告。2018年7月からトランプ政権の25%追加関税策、第一弾~第三弾まで実施。米国の中国からの輸入は下押し圧力がかかった。しかし2021年は増加。米国への輸出ではベトナムが漁夫の利を得たが、ベトナム自体の中国依存度は高まった。米国のノートパソコンとスマホは特に中国依存度が高い。

習政権はキラー技術で対抗を志す。5G、レアアース。また、自立自強を進める。

脱「中国依存」が進まないのは、グローバル・バリュー・チェイン(GVC)の中心がアジアにあって、中国に繋がっているため。製造業の付加価値輸出に占めるアジアの割合は2018年で38%。電機・電子産業と繊維産業の集積が厚い。またロックイン効果がある。日米欧の中国進出企業は中国を離れることを想定していない。

リショアリング(海外に移転した工場の本国への回帰)は実現が難しい。第三国への移転も規模が限られる。

中国の貿易依存度は、2006年65%から2020年35%に減少、中国国内での生産が進んだ。外資を含む企業が輸入から中国国内生産に切り替えたため。メイドインチャイナで市場席巻後シェアの上昇余地がなくなり、内製化で貿易依存度の低下が起きた。中国に対する期待は安価な労働力から、大きな国内市場へと転換した。スマホ市場が典型的な例だ。2010年の中国スマホ市場は欧米製品の模倣ばかりだったが、2021年には、ファーウェイ、vivoOPPO、小米(シャオミ)の現地正規メーカが8割を占めるようになった。中国は中間財も輸出するようになってきて、サプライチェーンに占める重要度が益々高まっている。

習近平総書記は、国内では集団指導体制から脱却し習一強体制の確立を目指した。国外には中国の力を認めさせることに注力した。このことは中国国内で閉鎖的言論空間の形成につながった。習政権誕生により米国国内での対中感情が急速に悪化した。「習近平新時代中国特色社会主義思想」を指導思想とする。

中国の不安は成長率の低下、自信は過去の改革開放政策による成長。中国の貧困人口は1990年66.3%から2018年に0.1%に低下した。世界全体では36.3%から8.6%に低下。

中国の米国へ輸出比率は減少している。中国の輸出をささえているのは発展途上国である。またイノベーションを生み出す力も強くなっている。

米国は従来の関与政策を否定するようになった。米国の民主主義の後退、世界で米国のリーダーシップを認める割合が減少。

中国は自立自強を目指している。しかし、中国の知財競争力は弱い。サービス業が弱い。半導体産業が弱い。中国の地場企業半導体生産は世界の4%(2021年)に過ぎない。中国のGVC依存度は高い。米国の半導体企業も中国無しではなりたたない。発展途上国にとって中国は米国を代替する役割を果しえない。中国の国有企業は過剰債務下で利益率が減少しており、民間企業も落ち込んでいる。

土地は国有だが、住宅は市場価格で取引される。住宅価格は値上がりし、不動産業はGDPの30%近いと推計されている。2021年9月以降、不動産価格の低下。在庫の積み上がりがみられる。問題:不動産開発企業の経営不安・デフォルト懸念。地方政府の歳入減。住宅購入者の抗議。共同富裕による不動産会社への規制。政府による下支え策がいろいろ。供給の絞り込みも。不動産価格は地域格差が大きい。中国の都市住宅価格は世界的にみても非常に高い。住宅価格を下支えすると、共同富裕が遠のくというジレンマがある。

過剰債務体質。主に政府の資本の入った企業に対する銀行融資の増加が過剰債務の原因。暗黙の政府保証が過剰債務問題の元凶。中国ではデフォルトを起こしても銀行取引が停止されないので、デフォルトは破産に繋がらない。ゾンビ企業が生まれる。社債のデフォルトが増えているのに、不良債権比率が上昇しない。返済が危ぶまれる企業への融資が止まらないため。過剰債務の元凶は国有企業にある。「国家資本主義」の最大の問題である。鉱工業分野では国有企業の売上は26%であるが、負債は40%(2020年)。習政権は国有企業を重視しているため、暗黙の政府保証といった問題の解決、国有企業の経営の独立性への改革が実施される見込みはない。

中国の所得格差は世界的にみても大きい。IMFによるジニ係数は2019年でも0.465と高かった。国家統計局はジニ係数の発表をやめてしまった。ジニ係数が0.4を超えると社会が不安定化する恐れがある(国連)。共同富裕はその解決を目指すが、曖昧である。分配政策は一次から三次まであるが、現在は、三次分配(寄付・慈善)が目立つ。二次分配は動きが鈍い。共同富裕のもとで、不動産開発、学習支援、IT産業は成長への貢献は低下するとされた。

対外融資と債権国としての責任。