『政府債務』(森田 長太郎著、東洋経済新報社、2022年12月8日発行)

政府債務について真正面から取り組んで考察した書。

2000年から20年ほどは日本が近未来において破綻することにリアリティを感じた人が少なくなかった。

IMFや世銀の想定する破綻は対外債務返済能力。従来は小規模国家のみであった。2012年ギリシャの実質デフォルトはOECD加盟国で戦後初のケース。これはユーロ加盟国で特殊。独自通貨を発行する独立国における財政破綻は、対外債務デフォルトのみで、主要先進国ではデフォルトの事例もない。

国内債務デフォルトは事例がない。国内債務は政府が、法的デフォルト以外に、インフレを選択できる。日本の戦後の超インフレで戦時国債処理した例がある。

インフレ率は過去に発生した債務評価額を変更するのみ。デフレも同様。

民間企業の債務は数年のスパンで判断するのが基準だが、政府債務は半永久的に継続することを前提としている。政府リセットがありうるか? 自国通貨建てで資金調達を行う先進国が政府リセットに直面した事態は、戦後起きていない。格付け会社ソブリン格付けは政府リセットについて吟味していない。

信用創造:政府が国債を発行して、家計が購入すると家計の現金が減る。しかし、政府資金が出回れば家計にその成果が回って、家計資産も増える。従って、政府債務残高が家計の金融資産残高を超えて破綻することはない。

日銀が国債保有する意味合いは、長期固定国債によるファイナンスから、短期変動のファイナンスに転換することにある。長期固定国債を、債権者は保有する目的は、保険・年金のような長期契約の利回りニーズにこたえること。需給のミスマッチは市場機能で埋める。しかし?

日本の過剰貯蓄は大きく、債務者優位であり、それが低金利に繋がっている。しかし、インフレ率上昇で利払い負担が増える可能性はある。

コロナ危機で政府主体、中央銀行のサポートによる膨大なマネー供給が、その後の世界各国のインフレの加速となった。米国ではバイデンの財政による過剰需要を、FRB金利引き上げで需要抑制しようとしている。米国で行っていることはマッチポンプである。政府と中公銀行が逆の行動をとっている。

貨幣とはなにか? 商品貨幣説は貨幣は商品の交換用、アリストテレスに起源をもち、英国の18~19世紀の古典派経済学も採用した。ドイツ歴史学派は歴史的な事実を踏まえて学問体系を構築する。貨幣論は表券貨幣説。考古学・人類学が支持する。貨幣の本質は一種の信用である。

中央銀行が民間信用のコントロールを通じてインフレを100%管理できると考えるのは誤りである。インフレターゲット政策は商品貨幣説のあだ花。

財政均衡主義(=ブキャナンは財政基本法とした)は、英国を中心とする近代民主国家の成立と並行して確立されてきた。ケインズ経済学は1930年代の大恐慌期に欧米政府が財政均衡主義をとっているのを批判した。1940~1950年代に主要先進国で主流となる。これに対してブキャナンは公共選択論で、財政赤字抑制はしたくないという政治家の動機で政府債務が拡大するとしてケインズ批判した。1970~1980年代ブキャナンの主張が優勢。フリードマンの財政拡張がインフレの元凶と主張。1970年代インフレ抑制のため1980年代のレーガンサッチャー政権に採用された。日本でも財政再建行政改革、消費税として成果を上げた。

1990年代日本の不況で財政基本法批判。ニューケインジアンMMT理論。これは財政均衡主義とケインズ主義の対立の繰り返し。

1930年代の大恐慌に対するケインズ主義は10~20年掛かった。2008年のGFCに対してはFRBは即座に大規模な金融緩和で対応、米国政府は財政を拡大した。

政府債務は後世代負担となるか。コロナ危機の現金給付の財政赤字は後世代負担といえる。しかし、遺産を考慮すると簡単ではない。後世代とは誰かを明確にしないと議論にならない。

政府債務の歴史。1820年前後の英国の公債発行残高は国民所得の290%。戦争によって英国の覇権を確立した代償。日本でも第2次大戦終了時は200%。1860年頃英国グラッドストンによる財政演説では来る戦争に備えて政府債務を縮小した。第2次大戦後270%になる。この負担解消はインフレがほとんど。日本も英国も世界大戦で急速に債務を拡大した。21世紀の日本は戦争なしに債務を積みあげた。

金融危機では不足する需要を政府が補って、流動性の罠を回避するのは妥当。飢饉・疫病、災害、戦争といったリアル危機はどうか? 巨大地震は? 可能性としてはGDPの100%の財政負担もありうる。戦争による危機はそれを上回り得る。

もし、国内供給能力が大きく棄損される場合、政府の貨幣発行は、民間部門とのクラウディング・アウトを引き起こすので、MMTの前提はなりたたない。リアル危機は金融危機とは違う。

日本の政府債務急増の歴史。1990年代以降の政府債務は尋常ではない速度で増えている。しかし、冷静に分析・批判がされていない。日本の政府債務増の原因は、①高齢化による社会保障費増、②3回の危機(日本の金融危機、欧米の金融危機、コロナ危機)に対する150兆円の財政支出、③減税による税収減305兆円(所得税法人税400兆円減、消費税100兆円増)。結局、減税で家計と企業に溜まったお金を政府が借金して使っているという構図になっている。