『21世紀の金融政策 大インフレからコロナ危機までの教訓』(ベン・S・パーナンキ著、日本経済新聞出版、2023年10月18日発行)

フィリップス曲線:1958年発表。イギリスの100年の平均賃金の伸び率と失業率から失業率が低いときは賃金の伸びのペースが速い。

現代版フィリップス曲線の3つの主張

・需要の増加が景気拡大の原動力のとき、賃金と物価の両方のインフレになる。

・供給ショックはインフレ率を高めるが、生産と雇用を減らす。オイルショックなど。

・失業率と供給ショックが一定なら、家計と企業のインフレ期待が1対1で実際のインフレになる。

1970年代大インフレ。アーサー・バーンズ議長がインフレ抑制に消極的なため。ボルカーがインフレ退治に乗り出す。

FedはCPIではなく、2000年代からCPE個人消費支出)を重視するようになった。2003年半ば食料品とエネルギーを除いたコアCPEは1%となる。デフレに陥る可能性が指摘された。

中立金利R*(名目値、r*は実質中立金利)物価安定化で完全雇用に達した時の金利。20世紀終わりから2020年金利と長期低下傾向がみられた。貯蓄者は予想インフレ率に+1%のリターンを求めるというフィッシャー方程式によれば、インフレ率の低下が要因の一つ。他にサマーズの長期停滞仮説。世界的貯蓄過剰仮説。

日本の罠のデフレの可能性。実効下限制約(ゼロ金利)に近づく。

2003年半ば~2004年半ばFF金利1%。2004年0.25%の連続利上げ~2006年6月まで。FF金利5.25%(?)。

200年代住宅バブルが始まっていた。主な理由は、安全資産の需要拡大と金融エンジニアによる信用担保証券。

2007年初め、すべてのサブプライムローンが直ちに破綻した場合の損失額は世界の株式市場が下落した場合の1日の損失額を下回るという試算。しかし、金融パニックを引き起こした(p.143)。

大不況期:2007年12月景気後退始まり~2009年。2009年3月株式市場は底打ち。強気相場が始まる。

商業銀行の個人預金:リテール資金調達という。ホールセール資金調達:CP、レポ(買戻し条件付き契約)。CPは事業会社が発行していたが、銀行が特別目的事業体ビークル)を設立して資産担保CPを多く発行していた。レポは短期の有担保ローンが多い。ホールセールの資金の出し手はMMF、年金基金、保険会社、企業財団など。

シャドウバンキング:ノンバンク金融機関と市場のネットワーク。住宅金融会社、消費者信用会社、投資銀行ヘッジファンドMMF。政府保証がないが規制が緩く、ホールセール資金調達に依存する。2006年末時点で政府保証の銀行預金が4.1兆ドルに対し、ホールセール資金調達は5.6兆ドルだった。

住宅ローンの証券化で評価ができなくなる。しかし、アメリカのサブプライムローンが世界中の投資家に保有されるようになった。

2007年末FF金利1%下げ、4.25%となる。追加利下げで2008年4月FF金利は2%に。10月末1%。

2008年末からFF金利を0~0.25に下げ、QE1の開始。日銀は金融資産の買い入れを準備預金で評価したが、準備預金が市場への貸し出しには直結しない。Fed長期金利の引き下げ効果を重視した。

2010年11月3日QE2。長期国債の買い入れ。

2012年9月QE3。長期国債MBSの買い入れ。

2014年2月3日ジャネット・イエレンFRB議長となる。

2015年12月、10年ぶりにFF金利達成目標を0.25~0.5に引き上げ。市場と景気がネガティブに反応した。一時的ミニ不況。引き締めが緩慢化。金融危機後の潜在成長率低下が原因か。

2016年12月FF金利を0.5~0.75に引き上げ。

2017年Fedのバランスシートが縮小開始。10月から満期償還金の一部しか再投資しない。年末時点のFF金利誘導目標は1.25~1.5%となる。

2018年2月パウエル議長就任。2018年中に4回目の0.25%引き上げで2.25~2.5%とする。成長の減衰、貿易戦争とあいまって株式市場が低迷し、トランプが批判する。

2019年貿易の不確実性による下方リスクに備えるため利下げ。中国との貿易報復合戦で、8月2週間でダウ平均が6.3%下落。

2020年1月29日景気拡大11年目、失業率3.6%、長期間の利上げ休止予想。しかし、2月23日イタリアでロックダウン、2月28日カリフォルニアやオレゴンで感染源不明の秒例が見つかる。2月最終週ダウ12%下落。

2020年2月パンデミックによる景気後退開始日認定。3月下旬、FF金利0~0.25%目標となる。3月はキャッシュ争奪戦となり国債市場が大混乱する。3月27日2兆2000億ドルの新型コロナウィルス経済救済法。4月には景気は回復を始める。史上最大の国内生産落ち込み、史上最短の景気後退期間。

2020年8月新しい枠組みを採用すると講演

インフレターゲット(2%)を過去平均目標とし、柔軟にする。

・失業率は雇用の最大水準からの不足にのみ対応する。

2021年1月バイデン政権発足、3月1兆9000億ドルの「アメリカ救済計画」成立。2021年前半には支出が増大。2021年には希望者の大半にワクチン接種がいきわたる。

インフレの懸念:財政刺激策、家計貯蓄の積み上がり、金融緩和で景気過熱。2021年後半にはコアPCEは5%増、総合CPIは7%。

QE: 目的は長期金利の引き下げ。実体経済に与える影響は、ポートフォリオバランス経路とシグナリング経路である。財政支出では製品やサービスが購入されるが、QEは金融資産の買い入れである。多くの経済決定は長期金利に依存するため、10年物の利回り1%の低下は、FF金利を3%引き下げるのと同じ効果がある。

フォワドガイダンス:政策当局が経済や政策の先行きをどう見ているかをみずから伝えるもの。期待に働きかけることを狙う。デルファイ型とオデッセイ型がある。ECBのマリオ・ドラギが2012年7月に「ユーロを救うためなら何でもする」という約束がもっとも強力だった。