『試練と挑戦の戦後金融経済史』(鈴木 淑夫著、岩波書店、2016年5月26日発行)

日銀の金融政策について割と歯に衣着せぬ記述が多く、面白い。

1971年8月15日第26回目日本降伏記念日に、ニクソンが金とドルの兌換を停止。12月スミソニアン会議で1ドル360円から308円に切り上げ。73年2~3月先進国は次々に変動相場制に移行し、プレトンウッズ体制(ドルを金に換えられる金為替本位制と固定為替相場制)が崩壊。71年当時の政財界では円切り上げを議論する雰囲気はなく、円切り上げはタブーだった。(pp.56-58)

金融政策大失敗

ニクソンショックで為替差損に怯える民間銀行から政府がドルを買い上げ、円の切上げ直後に公定歩合を下げ、72年中に金融緩和が進む。マネーストックが72年末前年比+26.5%で過剰流動性となる。政府は円切り上げのデフレ効果を大きく見て、72年秋列島改造計画を盛り込む超大型財補正予算を執行。

72年金融面の過剰流動性、財政面ので景気回復が加速。72年10~12月期国内卸売物価は前年比4.9%上昇。

73年度福祉元年超大型当初予算を組む。73年5月には公共事業執行繰延閣議決定。政策意識にずれがある。

73年4月公定歩合引き上げ5%にする。5月、7月、8月引き上げて公定歩合7%。コールレート9%。しかし、73年9月の卸売物価は前年比18.9%増、消費者物価は同14.4%増。

73年10月石油ショック。狂乱物価、74年2月卸売物価32.7%、消費者物価24.9%前年比上昇(ピーク)。73年12月公定歩合9%はあとの祭り。74年戦後初のマイナス成長。

森永・前川総裁は、大失敗の原因を分析した。前川時代の第二次石油ショックでは80年1~3月に機動的な公定歩合の引き上げを実施公定歩合9%とした。コストプッシュインフレをホームメイドインフレに転嫁させないため。

85年9月プラザ合意。G5各国が協調して米ドル相場を日欧通貨に対して引き下げる。1ドル240円から、86年後半は150~160円に下がる。87年2月ルーブル合意でドル安誘導打ち止め。

ルーブル合意後は、景気回復しても利下げを要求され、景気上昇下で公定歩合を2.5%に下げる。87年10月19日ブラックマンディのマーケットクラッシュで1ドル130円代に落ちる。日本経済をバブル化した悲劇の幕開け。経済成長加速に関わらず89年5月迄2年3カ月間公定歩合2.5%で放置した。86年12月から91年2月迄51カ月景気上昇。宮澤喜一大蔵大臣は、G7で繰り返される米国の主張を受け止めて低金利を維持、経済の過熱リスクを顧みず。低金利永久神話で資産バブルが生まれる。金融政策の問題が多かった。

バブル崩壊から金融恐慌

日本はバブル崩壊から金融恐慌へ至る道を歩む。

92~93年はバブル不況。93年11月~97年5月までは民需主導型の景気回復があった。

96年住専問題で6850億円の公的資金を投入。

1996年1月~98年7月迄橋本内閣。97年度の超緊縮予算で不況対策で増えた財政赤字を解消しようとした。消費税引き上げ5兆円、所得減税打ち切り2兆円、社会保険負担2兆円増など9兆円の国民負担増。4兆円の公共投資削減で13兆円財政赤字削減。しかし、結果は景気下降となり98年度は戦後3回目のマイナス成長に陥る。

97~98年平成金融恐慌。預金保険機構から50兆円資金投入。

97年度~99年度ゼロ成長とマイナス成長が続く。政策不況。2年半で実質GDPが3.6%縮小し、金融恐慌が発生する。株価は3割下落、97年11月3日に三洋証券倒産、北海道拓殖銀号破綻、山一證券自主廃業、徳陽シティ銀行破産。98年は10月に日本長期信用銀行破綻、11月日本債券信用銀行破綻。政府の対応に問題があって金融危機を大きくした。官僚主導政治の失敗。03年4月のりそな銀行への公的資金注入で一段落するまで続く。

ゼロ成長の論調で、企業が固定費圧縮に全力、債務・設備・雇用の過剰解消を課題とする。期待成長率の低下は、現実の成長率を総需要を押し下げて、需給ギャップが拡大し、デフレになる。

04年頃に過剰感が交代、08年頃まで景気拡大:戦後最長のいざなみ景気。企業が資金不足部門から資金余剰部門に変った。投資規模が縮小し、内部留保減価償却で投資を賄える状態となる。但し、成長率は1~2%(平均年1.9%)、輸出に偏る(輸出寄与率69%)。賃金の引き下げで雇用者報酬は名目で97年比8.4%下回る。家計消費の伸びは成長率以下、住宅投資が減少。

世界経済のゼロ成長

2008年リーマンショック。白川総裁。大幅な円高、輸出需要の急減、株価は半値になる。日本経済は08/2Q-09/1Q GDP 9.2% 縮小。09/2Qから回復過程に入るが11/3に東日本大震災で再びマイナス成長となる。12-13年はユーロ「ソブリン」危機。13年4Qに漸くリーマンショック前に戻る。

需給ギャップは半年後のコアコアCPIとピッタリ一致する。白川総裁時の需給ギャップの悪化は30年間で最悪な状態。

支出行動は期待成長率(成長率の予想)に依存する。成長戦略が必要。

コアコアCPIは、1%上昇が正常な姿であり、2%上昇はめったにない。目標として不適切だ。

異次元緩和

13年3月黒田東彦総裁就任。4月には2%の消費者物価上昇率を2年程度で達成する、異次元緩和。14年10月31日異次元緩和第二弾。消費税率アップ後の需要の弱さなど。円安と株高への巻き戻しが起きる。

消費増税のデフレ効果を見誤る。

16年1月29日マイナス金利導入。銀行株価低迷。

量的緩和継続で、出口政策のリスクを拡大している。

出口で金利上昇すれば、国債の価格が下がり、これを保有している地方銀行、信用金庫、信用組合の損失が増える。長期金利上昇で巨額の評価損が発生する。

世界的な経済成長率、インフレ率、金利の低下傾向。IMFの見通しでは15-20年の潜在成長率は先進国1.6%、新興国は5.2%。少子高齢化に伴う生産年齢人口の伸び率鈍化による。日本の経済成長率の段階的低下は、少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少によるところがある。

日本以外の国では、移民を受け入れて人口オーナス問題の縮小を図っているが、日本だけが先進国中で移民の受け入れを真剣に考えていない。

安倍の3本の矢のうち、第一の矢は頑張ったが成果が上がらず、第二の矢の財政出動は逆噴射、第三の矢の成長戦略は実行性に問題あり。

新3本の矢の一億総活躍は選挙スローガンに過ぎない。生産性の向上と労働力率の引き上げだけでは経済成長率を上げられない。目よ世界に向けよ。移民の拡大、日本は直接投資収益を拡大する努力。GDPではなくGNIを見る。

金融政策展望レポート

経済・物価情勢の展望(展望レポート) : 日本銀行 Bank of Japan