前書きより
西洋の敗北とは、宗教面、産業面、道徳面における西洋自身の崩壊のプロセスである。二つの西洋。①アメリカ、イギリス、フランスの三大自由民主主義国。②それにドイツ、日本を加えた経済的近代の西洋、広義の西欧。ドイツ、日本は権威主義的傾向がある。
対ロシア制裁はヨーロッパ経済をストレス状態に陥れた。フランス政治の危機はこの戦争が引き起こした大衆層の生活水準の低下にある。
戦争に関する10の驚き
ウクライナは破綻国家であるにも関わらず、戦争そのものに自国の生存理由を見出した。ロシアは経済制裁に耐えている。イギリスやスカンジナビアの好戦主義。アメリカはウクライナに砲弾をはじめ確実に供給できない。ロシアへの支持があちこちで見られる。
国民国家はある領土内の様々な階層の人々が共通の文化に属していることを前提とする。さらに最低限の経済的自立を享受できていう必要がある。(p.35)
ロシアの安定
2000年から2017年プーチン政権で、人口10万人あたりアルコール中毒死亡率は25.6人から8.4人に、自殺率は39.1人から13.8人、殺人率は28.8人から6.2人に減少した。乳幼児死亡率は2000年に1000人あたり19人が、2020年には4.4人に減少し、アメリカの5.4人より少ない。
インターネットではロシアにはGAFAに対抗できるローカルな代替ソリューションがある。また、ミンスク合意のお陰でSWIFTに代わる決済システムができ、独自のカード決済などもある。小麦の生産は2012年の3700万トンから2022年8000万トンとなる。米国は1980年6500万トンから2022年4700万トンに落ちた。
プーチン政権下では出国の自由があり、反ユダヤ主義はない。世論調査での支持率は高い。
エンジニアを専攻する学生は23.4%、米国は7.2%。工業のレベルは高い。
総じて政権運営に自信があり、社会の安定性は高い。これは予測可能だった。
ウクライナ
破綻国家である。人口は1991年5200万人から2021年4100万人に20%減少。出生率の低下と出国率の大きさによる。代理母出産の天国で世界シェアの25%を占めていた。また、2014年マイダン革命後は文化言語であるロシア語話者が(ナショナリストの圧力で)減った。ウクライナは核家族的個人主義、父系制度だろう。
ウクライナはソ連崩壊で国民国家にはならなかった。オルガリヒが支配する国。民族言語学的には二元構造(ロシア語、ウクライナ語)。東部は都市化が進んでいたが、中流階級はロシアに移住してしまった。
西洋とは何か
西洋の危機は世界の危機だ。西洋の発展の根源はプロテスタンティズム。狭義の西欧は自由主義の革命の歴史を持つが、広義の西欧は自由主義ではなく権威主義的であり、ロシアは権威主義的西欧に含めることができる。
プロテスタンティズムは教育と差別(人間は平等ではない)に特徴がある。
現在は、宗教から受け継いだ慣習・価値観が失われた宗教ゼロ状態。集団的な信仰を失った個人の集まりとなり、国民国家が解体される。同性婚の制度化が宗教ゼロ(キリスト教の終焉)を示す。米国は全国レベルでは2015年。西欧は2001年からドイツ・フィンランドの2017年までの範囲。
ヨーロッパ
ロシア産の天然ガスを絶たれ、エネルギーコストが高騰して、欧州の産業は脅威にさらされている。ロシアからヨーロッパへの脅威はない。かつてスイスに貯められていた欧州富裕層の富は、アメリカの支配にあるタックスヘイブンに移っており、富裕層の資産は米国国家安全保障局の監視下にある。
イギリス
白人プロテスタントの国として、白人が優れているという暗黙の前提で帝国を築いた。いまは指導者層がカラー化している。BAME(Black, Asian, Minority Ethnic)は英国全人口の5.7%に過ぎない。しかし、政界では人口比率以上に存在感がある。新自由主義により、中流階級の経済状況が大きく劣化し、平均余命の伸びが停滞している。
アメリカ
1980年~2020年不正義の勝利。富裕層から貧困層まで一律の税率へと転換。男(XY染色体)を女(XX染色体)に変えることやその逆はできない。できるというのは虚偽であり、トランスジェンダーは虚偽を肯定することなのでニヒリストの知的行為である。
オバマ政権時代から経済政策の保護主義に転換したにも関わらず、アメリカの貿易赤字の規模は膨らんでいる。米国ではエンジニアSTEM学科を選ぶ人が減って、金融などの選考が増えている。これが物の生産の弱体化につながっている。
WASP(白人、アングロサクソン、プロテスタント)エリートの消滅。
BRICS
2009年に形成。ロシアを非難していない。
西欧社会の平民は、その他の世界との自由貿易を通じて、その他の世界の労働者を搾取している。ロシアは世界規模での搾取競争に参加していない。このことはその他の世界から見ると好まれるのかもしれない。
ウクライナ戦争の根本的対立は、ロシア対アメリカとその同盟国(属国)である。
父系性地図とホモフォビア(同性愛に反発する)世界地図は重なっており、西欧の慣習革命に反発する世界=西欧の孤立を示している。
ベルリンの壁崩壊後の歴史
ソ連の崩壊はアメリカの力によるものではなく、内部崩壊である。
オバマ時代からアメリカの地政学的敵は中国であった。しかし、ロシアとの戦いになってしまったのはなぜか。
地政学的にはアメリカ、中国、ロシアが3大勢力だが、ドイツが重要。
結局、アメリカとウクライナの敗北、ロシアとドイツが接近する。
今のアメリカは自分がだれで、どこに向かっているかが分かっていない。
1990年に始まった一つの歴史のサイクル
1990年ドイツ統一。
1991年12月ソ連崩壊。ロシアが中心になると予想されたが、ロシアも崩壊寸前までいった。1998年どん底。
1997年NATOが加盟希望国への門戸開放の原則を採用。
1999年ポーランド、チェコ、ハンガリーがNATO加盟。同年プーチンが政権を握り、ロシアの再興が始まった。
2001年9月11日ワールド・トレード・センターへのテロ。アメリカの関心は中東に向かう。2003年イラク進攻は純粋な侵略戦争である。ニヒリズムが作り出した嘘。
2001年12月1日中国がWTOに加入。アメリカに大惨事をもたらした。
2002年9月ブッシュ(子)政権は、新しい「アメリカ国家安全保障戦略」ですべての国は「共通の価値」へと収斂するとした。これはおとぎ話である。
アメリカがアフガンとイラクで迷走、自国産業は中国に破壊された。この間にロシアが復活した。第二次チェチェン紛争でプーチンは不動の支持を得る。1999年から2001年ドイツが復活。
2007年までNATO拡大、続いてEUが拡大した。ヨーロッパの繁栄。
2004年11月~2005年1月ウクライナのオレンジ革命。アメリカが操った。アメリカのロシア嫌いへの態度変化が現れる。
アメリカの反ロシア姿勢への転換は、自立して活力にあふれ、ロシアとの協調を望むドイツに動機があった。
ノルドストリーム1は、2005年末工事開始、2011年工事完了、2012年開通。
2007年2月ミュンヘン安全保障会議でプーチンはロシアはアメリカがルールを課すような一極体制の世界は受け入れないと演説した。
2008年4月ブカレストNATO首脳会議でジョージアとウクライナにNATO加盟を申請した。
2008年からオバマ政権。サブプライム危機で経済神話が崩れる。
2010、2011、2015年のギリシャ危機でドイツこそが支配権を持っていることが明確になる。
2013年ユーロマイダン革命。EUの操作による。ウクライナの分裂。アメリカは中東を放棄。
2014年ロシアはクリミアを取り戻し、2015年9月ロシアはシリア紛争に介入。
2016年6月ブレグジット宣言。
2016年トランプ就任。ウクライナの軍備増強を開始。ジャベリン対戦車ミサイルを供給した。トランプ政権下でブロッブが増殖、未秩序に陥った。トランプのNATO脱退示唆にも関わらず、NATOが拡大した。2020年2月タリバンとアフガン撤退合意署名。
2020年11月バイデン当選。2021年8月アフガン撤退。
ウクライナのナショナリストが活躍。NATOの事実上の加盟国であるかの如くふるまう。2021年12月プーチンはウクライナのNATO非加盟保証を米国に求めたが、ブリンケンはNOと答えた。