『プーチンの戦争「皇帝」はなぜウクライナを狙ったか』(真野 森作著、筑摩書房、2018年12月15日発行)

主に、2014年2月に始まったクリミア異変とロシア編入、2014年4月に始まったドンパスの親露派の占拠から5月11日の住民投票、独立宣言、2016年までのその後の各地域の変化を中心とするルポである。

単に現地に入ってみて歩くだけではなく、例えばクリミア問題については、クリミアの歴史、スターリンによって強制移住されたクリミア・タタール人の苦闘などをクリミア関係者に直接取材して報告している。クリミアは、タタール人を移住させたあとロシア人を移住させたという経緯もありロシア語を話す、ロシア人の割合が多い。ロシアに編入を喜ぶ人々も多くいたようだ。

ウクライナは西部と東部では民族の構成が異なっており、東部では新露派が多い。しかし、それでもウクライナからロシアへの編入を望む人が多数派とは言えない印象を受ける。

著者は2013年から、2017年3月まで毎日新聞モスクワ支局を拠点にして取材活動をしている。ウクライナ問題を、現場の兵士、市民をはじめ、ウクライナやロシアのキーマンや、過去を知っている人(例えば、フルシチョフの息子)に比較的中立の立場で取材をしているようで本ルポの内容には信頼感がある。

2014年から始まったウクライナの混乱は、ウクライナの政権の弱さ、あるいはウクライナの役人の汚職・腐敗といった問題をチャンスととらえたプーチンが仕掛けた戦争といえる。

プーチンについては、2000年から2005年までプーチンの経済顧問を担当し、その後、政権に批判的な立場に転じて米国に移住した元側近アンドレイ・イラリオノフの言葉「彼は賢い人物で、自己の統制にたけている」という言葉である。しかし、問題は嘘が本性になっていると同時にやはり自分の成果を誇りたいと考えていることだろう。例えば、クリミア問題については、3月5日のインタビューでは、「クリミアのウクライナ軍基地を封鎖した人々はロシア軍ではなく、地元の自衛部隊だ。また、クリミア編入は検討していない」(pp.071-072)と言っている。しかし、2015年3月のクリミア編入1周年の国営テレビ特別番組「クリミア 祖国への道」では、編入に至る裏側を自ら詳しく語り、14年2月にはクリミア半島を取り戻す作業開始を側近に宣言し(p.251)。そして覆面舞台による軍事行動を指示している(p.252)ているという。それまで、編入は「住民投票に基づくもので国際法に合致する」と主張していたのに、大ウソだったわけだ。

2022年のロシアによるウクライナ侵攻も含め、これらはプーチンが引き起こした戦争といえるだろう。