『穀物の世界史 小麦をめぐる大国の興亡』(スコット・レイノルズ・ネルソン著、日本経済新聞出版、2023年10月13日発行)

小麦を中心とする穀物の生産地、加工地と消費地を結ぶ輸送方法・輸送路の観点から帝国の興亡を語る。面白い視点で、歴史の新しい見方だ。

二つの中心的な生産地はウクライナアメリカである。ウクライナは古代からだが、アメリカは1800年頃には小麦粉として少量を輸出していたら、1850年代に小麦のままで輸出するようになり急速に量をふやしてヨーロッパの労働者を養うようになる。1861年南北戦争が始まってからはさらに増えている。

ウクライナロシア帝国の辺境地として組み込まれ、ロシア帝国の盛衰に大きな影響を与えた。

このほか、オスマン帝国プロシア穀物戦争にさまざまな形でかかわる。

ロシアがシベリア鉄道で極東に支配を伸ばしたが、日露戦争の敗北で、旅順・大連を失ってロシア帝国の終焉につながった。

物語のもう一つの糸はパルヴスという筆名をもつ(本名はアレクサンダー・イスラエル・ヘルファント)穀物商・革命家である。なかなか魅力的な人物で、本書によるとロシアの革命、プロシア(ドイツ)帝国、オスマン帝国などで重要な役割を演じたらしい。本書を読むと余りにもスーパー能力があるように見えて若干胡散臭いが、魅力的ではある。