『ドキュメント異次元緩和 10年間の全記録』(西野智彦著、岩波新書、2023年12月20日発行)

2012年末の総選挙で2%インフレ目標・無制限金融緩和で安倍の勝利で始まる。白川総裁、黒田総裁、リフレ派政策委員選任、植田総裁と政治の関係、バズーカ、マイナス金利、YCC…と複雑化した金融緩和の過程。

リフレ政策とは、日本のデフレ脱却が必要である、デフレは貨幣的現象なので金融政策でのみ対処できる、日銀は量的緩和を行うべき、というもの(p.15)。

安倍晋三は最初は金融緩和だけでデフレ脱却はできると信じていた。リフレ派自民党山本幸三学習院大学岩田規久男、元日銀審議委員中原伸之、イェール大学浜田宏一

2013年1月22日金融政策決定会合で日銀は2%物価目標、などを決定。3月白川総裁辞任。3月21日黒田総裁を選任。岩田、中曾副総裁でレジュームチェンジ。黒田はリフレ論者ではないが、金融緩和で2%インフレ実現が可能と信じていた。雨宮正佳は大阪支店から政策担当として企画ラインに戻る。2年で2%。

4月4日初の金融政策決定会合で大規模緩和決定。バズーカ。

・マネタリーベース操作:年間60~70兆円増やす。

・長期国債年間50兆円程度買い増し。残存期間を現状の平均3年弱から平均7年程度とする。

ETFを年間1兆円、REITを年間300億円買い増す。

・2%物価安定目標。実現まで量的・質的金融緩和継続する。

2年で実現できると信じていた。初戦は好成果。

2014年4月消費税8%にアップで変調。2014年10月31日第2次緩和。バズーカⅡ

・マネタリーベース操作:年間60~70兆円増⇒80兆円

・長期国債年間50兆円程度買い増し⇒年間80兆円

・同残存期間を現状の平均3年弱から平均7年程度とする⇒7~10年に延長

ETFを年間1兆円、REITを年間300億円買い増す⇒従来の3倍増

・2%物価安定目標。実現まで量的・質的金融緩和継続する

2014年11月再増税を1年半先送りし、12月14日衆議院解散総選挙。安倍勝利。

日銀による国債買い入れは銀行への補助金の側面がある。

2015年4月CPI上昇率消費税増税の影響を除き、0%に戻る。2015年夏上海株式暴落。

12月16日金融緩和補完策:国債残存期間を伸ばし、ETF購入額を3000億円増やす。しかし、株価は下落。

2016年正月チャイナショック。マイナス金利検討再開。1月29日政策決定会合でマイナス金利を決める。

三層構造:当座預金の大半に0.1%付利。マイナス金利は当初10兆円程度。しかし、長期金利が低下して金融機関の収益環境悪化となる。イールドカーブのフラット化すすむ。金融界が構造不況業種化する。マイナス金利は失敗と考える人が増える。枠組み変更へ。

2016年9月20、21日の会合でYCCを導入する。短期金利-0.1%、長期金利0%とする、操作目標を量から金利に移行。国債買い入れ額が少なくなる。

岩田、浜田は、当初、金融政策だけで2%実現できると言っていたが、その後、財政政策も必要と主張を変更した。

2018年4月9日黒田総裁再任。副総裁は若田部と雨宮に交代。2%目標達成の時期に拘らない方針へ。安倍官邸は2%を3本の矢の目標から切り離す。金融政策決定会合でも達成目標時期は削除された。

2018年7月決定会合でYCCの長期金利の変動幅を若干拡大。若田部副総裁の反対で数字は明記せず、総裁記者会見で±0.2%と発言。

2019年3月日銀のバランスシートは、長期国債保有459兆円発行残高の40%超え、ETF29兆円東証一部時価総額の4.7%、総資産はGDPを上回る。副作用が大きくなる:

・市場機能の劣化、資源配分の歪み、財政規律の緩み、マイナス金利による地域金融機関の経営悪化

2020年新型コロナウィルス感染症発生。米短期金融市場でドルが枯渇し始める。

2月下旬、邦銀でドルが取れなくなる。2月28日FRB緊急利下げ予告、3月3日正式決定。3月5日ニューヨーク平均株価965ドル急落、4日後2000ドルを超える暴落。東京も平均株価2万円割れ、原油価格は歴史的な下落。3月11日ニューヨーク株価は2352ドル続落。

米国の金融機関が短期市場にドルを出さなくなったためドル不足となる。2008年リーマンショック時の中央銀行通貨スワップ協定の発動。金融システム危機の回避。

2020年7月政府の緊急経済対策117兆円。日銀は4月27日第2弾緩和措置。コロナ対策の補正予算は新規国債発行で賄われる。日銀の無制限買い入れで金利が上がらず。

米国FRBはYCCを検討したが採用せず。日銀のYCCが継続できたのは日本で金利上昇局面が来なかったためだろう。

2020年コロナ対策のため政府と日銀の連携強化される。8月17日に20年4~6月期のGDPは前期比マイナス27.8%で戦後最大の落ち込みが発表。安倍は7時間の検査。10日後退陣を表明する。

2021年3月審議委員変更でリフレ派敗北。2021年9月自民党総裁は菅から岸田へ交代。

2022年2月24日ウクライナ戦争始まる。3月に入って日本への影響が出始める。日銀の10年物国債金利が誘導上限の0.25%となって、連続指値オペの実施をきっかけに円安へ向かう。125円。ドル金利との差が広がる。円売りと原油高で4月総合指数2.1%、

国内物価2%レベルとなる。日銀は2%は一時的と判断。物価をめぐる国民と日銀の感覚のずれが広がる。6月6日黒田総裁の家計がインフレを受け入れているという発言が炎上する。国民と日銀の認識のずれが鮮明になる。

2022年夏円安が進み、YCCの変動幅制限に対する海外ヘッジファンドの挑戦。

2022年7月安倍死亡67歳。

黒田はCPI2%超え、円安にもびくともしない。しかし、首相官邸財務省が日銀に圧力をかける。YCC批判が首相周辺、海外からも出る。10月20日1ドル150円。

物価上昇10月3.6%で思ったより上昇。12月長期金利変動幅を±0.5%程度に拡大方針を決定。サプライズで5円の円高

2023年1月国債売りの圧力、日銀が10年物国債を全部買う事態。雨宮はYCC打ち切りを進言するが黒田は揺るがず。

2023年4月10日日銀総裁は植田に交代。

2023年7月28,29日の決定会合で長期金利の柔軟化、変動幅を最大±1%許容する。

2023年10月31日YCCの再修正、上限1%を目途に変更する。