「国家債務危機」(ジャック・アタリ著、林 昌宏訳、作品社)の読後感

「国家債務危機」(ジャック・アタリ)を漸く読み終えた。
主権者の債務をソブリン債務という。昔は、支配者が亡くなると、債務も継承されなかった。徐々に主権者の債務が次の主権者に継承されるようになった。国民主権の時代ではソブリン債務は国民の債務である。

「第2章 公的債務が、戦争、革命、そして歴史をつくってきた」フランスはフランス革命のとき、ルイ王朝のソブリン債務を2/3破産法でチャラにしたらしい(pp.100〜102)。恐怖紙幣アッシニアなどいろんな貨幣を発行、紙切れを信用した国民の資産は最終的に1/3000になってしまったとか。

「第3章 20世紀、<国民主権>と債務の時代」「第4章 世界史の分岐点となった2008年」先進国は、発展途上国から借金する時代となったも面白い。

国家債務危機は、先進国全体の問題であるという主張である。最悪のシナリオは全ての先進国が連鎖的に破綻するケース。このとき、世界の覇権はアジア(中国)に移るという。

対応策を主にフランス、次にEU、次に先進国全体という順序で提案している。フランスの最悪のシナリオもある。EUに関する話題は日本では情報が比較的少ないので勉強になる。

なかなか厳しい表現の多い本だ。「数年後には...フランスは、絞首台の階段を上ることになるのである」(p.226)なんて表現はその典型例。全体として、あまり実証的ではなくて、断言的なのが気になった。まあ提案を実証的にするのは難しいかもしれない。

世界のどこかで破綻が起きると先進世界全体に広がる。2007年のアメリカバブル崩壊から2008年のリーマンショックの波及が日本にいる自分達に波及した過程を見ても感じる。確か「対岸の火事」と発言した能天気な政治家もいたが、リーマンの破綻が起きて半年で先進世界全体が凍りついた。中でも2009年初頭の日本経済のフリー落下の恐怖は未だに自分の記憶に新しい。

著者は過剰な国家債務への戦略として次の8項目を挙げている。−−増税、歳出削減、経済成長、低金利、インフレ、戦争、外資導入、デフォルト

そして、国家債務の最良の解決策は経済成長という著者の見解には同意する。

翻って日本の国家債務を考えると、過去は家計の貯蓄過剰で、最近は、企業部門の投資不足と低金利によって支えられているのだろう。今、日本国内は投資不足で資本のストックが減少しているらしいので、経済成長達成にとって、この状態は深刻な問題だ。

この本は、組版に奇妙な点が多い。1)ノンブルの無い見開きページ。2)側注が2ページに跨っている。2ページ目に3文字だけ(pp.037-038)。苦しいのは分かるが。3)ノンブルが前ゼロ付とは初めてだ。索引が欲しい。ストーリーを読む文芸書には索引は不要だが、内容を検索する書籍には索引は必須。