従来の世界史は、ギリシャ・ローマ世界とその宗教的精神を継承した西欧の歴史の進展を中心として文明の歴史をとらえる傾向があった。
本書はこれに対して新しい世界史を提唱しようとする。その方法としては文字の生まれと変遷をキーとする。
メソポタミア、粘土板に書く楔形(せっけい)文字とヒエログリフが生まれた。ヒエログリフ扱いにくさから消滅し、ヒエログリフ世界はアラム文字の世界になる。
エジプトでは、それぞれヒエログリフは表音文字化し、シナイ文字、フェニキア文字、アラム文字が生まれた。アラム文字はアラビア文字の世界へと発展する。アラビア文字は、イスラムによる大征服により、広く普及した。
フェニキア文字は古代ギリシャ文字、ギリシャ・ラテン文字の世界を生み出し、その後に西欧キリスト教世界を中心とするラテン文字世界、東欧の正教世界を中心とするギリシャ・キリル文字の世界に発展する。
インダス文明はインダス文字を生み出したと考えられるが消滅してしまった。その後に、無文字世界へ戻ったインド亜大陸にはブラフミー文字が定着し、ディヴァーナガリー文字などに進化した。ブラフィミー文字を期限とする諸文字の世界を、本書は梵字世界と呼ぶ。梵字世界は仏教とともに東南アジアに広がった。
黄河文明を起源とする世界から漢字が生まれ、周辺の世界に広がった。
このように本書では、ラテン文字、キリル文字、梵字、漢字を五大文字として、それぞれの世界の歴史発展を概観する。
ラテン文字世界の支配単位は中世では教会と神聖ローマ皇帝があったが、実際は、諸王・諸侯が分立していた。その中から権力の集中により16世紀から17世紀にかけて絶対王政が誕生。軍事技術、支配権の根拠として主権概念の成立、その後、国民主権の概念が生まれ、イギリスやフランスでは国民国家ネーション・ステートが生まれた。
イギリスで経済的システムとしての産業資本主義システムが生まれ、ラテン文字世界以外は、こうした西欧からのショックを受け入れ、グローバルなモデルとして広がった。
グローバルモデルの広がりは植民地時代を経た国や、日本のように速やかに転換して列強の仲間入りする国もあり、さまざまであった。
一冊だけで世界の歴史を概観する本としては本書の見方は卓抜といえる。