『イスラーム 書物の歴史』(小杉泰・林佳世子編、名古屋大学出版会、2014年)

書物の歴史というと活版で印刷した本のことを思い浮かべるが、それはアラビアでは歴史的には短いようだ。アラビア文字の世界で印刷が始まったのは、キリスト教の聖書などマイノリティの分野(p.353-358)。ムスリムの支配層による印刷は18世紀、19世紀には官営印刷所が始まっている(p.361-365)。しかし、19世紀前半でもあまり事業としてはうまくいかなかったらしい。19世紀後半に印刷が定着した、ということになると日本と同じようなものだ。

それ以前は手書きの写本が書物製作の主流ということで、写本を作る仕組みも(文字を書く、挿絵を入れる、製本するなど)できあがっていて、そういう時代が長く続いたようだ。

写本の時代には書物にも知識の伝承の系譜の記録ができてそれが重要だったらしい。

本書は、7世紀のイスラム誕生のころから始まって、書物の形にしたクルアーン(ムスハフ)の誕生、アラビア語正書法の誕生など、イスラム世界での書物勃興から写本全盛の時代を中心に、解説されており、実に読み応えがある。

アラビア文字の世界では、活版印刷、そしてデジタル印刷が使われた時代は短く、いまはもうデジタル流通の時代になっているようだ。

大量印刷やデジタル配信の時代には配布物に知識の伝承の系譜を記録することはできないですが、これはどうするんだろう?