『揺れる大欧州』(アンソニー・ギデンス著、岩波書店、2015年10月6日発行)

親ヨーロッパ派、EUの永続を望む。EUの共同行動で世界に影響を及ぼせるという議論。

グローバル化の加速とインターネットの台頭によって、人類全体は、ごく近い過去の時代と社会的、技術的に異なるシステムの中で生きているのではないだろうか。p.15

ユーロ危機は、世界全体の経済的困難を反映し、EU2メルケル、オランド、欧州中央銀行IMF)に牛耳られることとなる。p.21

銀行と各国国債との悪循環を断ち切るには? 銀行同盟、その後の財政同盟が必要。p.26

欧州委員会は、政策を立案し、諮問文書の形で提案を示すので、目に見えやすいが政策を実行する力がないので、紙のヨーロッパができる原因となっている。p.34

贅肉の少ない連邦主義が良い。米国をモデルにするべきではない。p.36

2014年欧州議会選挙ではポピュリスト政党が躍進したが国毎に事情がことなる。p.43

EU支持は、2007年から2012年で減少したが、ギリシャ、スペイン、英国での減少幅が大きい。p.47

キャメロン首相の演説では、英国にとってのEUは経済的手段のようだ。つまり単一市場という。しかし経済は目的ではない。他のEU加盟国には共感されなかった。p.56

緊縮財政とその影響。ユーロ圏は決壊寸前の堤防のようだ。ギリシャは2008年以前は高成長社会であった。2009年新首相パパンドレウが公務員の数を尋ねたが誰も答えを知らなかった。統計を調べたら1200万の人口の中で100万人であった。公務員の首が切れなかったり、労働市場規制で若者の失業率が高かった。「緊縮財政ショック」。5年間で改善したが、税金逃れが多い。全経済活動の30%が地下経済である。ギリシャが繁栄の道に戻れるかが重要。p.74

リスボンアジェンダは2010年までの目標。その後、欧州委員会のヨーロッパ2020構想の5つの大目標:雇用、研究開発、気候変動・エネルギー、教育、貧困と社会的排除。しかし、リスボンアジェンダに似ており、プロセスが欠如している。リスボンアジェンダの目標はどれも達成できなかった。デジタル技術が重要である。デジタル技術で生産性を上げられる。モノづくりとサービスの新しい転換。

海外への生産移転と外部委託はいま流行らないビジネスモデル(p.86)。再工業化の動き(があるか?)p.88

お金を取り戻す。タックスヘイブンへの対応。タックスヘイブンを利用する国際企業は、規制が緩和された国際市場のうまみを引き出してオフショアに金をためている。これらの資金の大半は国家に帰属するべきだ。p.94

 欧州社会モデル(ESM)。北欧(ノルウェーフィンランドスウェーデンアイスランド)では、リスボン戦略の目標に近いところにあった。p.101

 国家という制度は巨大な官僚制になる傾向があり、官僚の関心や懸念は本来使えるべき市民から遠くかけ離れがちである。福祉の利用者の権限強化と、政策決定の分散化が論じられるべき。p.106

スペイン、アイルランドでは、2009年緊縮財政による福祉の削減が大きかった。失業率も急増した。p.110 2007年時点でスウェーデンデンマークノルウェーでは子供の貧困率は4%で低いが、ギリシャは20%、イタリアは18%であった。貧困の期間は1年以内が40%である。仕事の無いものは貧困の罠にはまりやすい。福祉や医療の改革には余地が大きい。p.118

北欧では高齢者の就業率も高い。奨励制度で効果を上げた。p.127

人口比失業率を使うべき。2012年のギリシャの若年失業率は55.3%だが人口比失業率は20.6%である。若年失業率を下げる政策が重要。p.130

 境界管理策。グローバル化した世界では、異なる信念や生活様式の交わりが日常のこととなる。p.132

ヨーロッパは過去2世紀移民送り出し国であった。1850-1930年までに約500万のドイツ人、1820-1930年までに約350万のイギリス人、450万のアイルランド人が米国に入国した。1960年~1970年代はヨーロッパが労働者不足。トルコからドイツに来た移民の結果、ドイツには300万のトルコ出身者がいる。pp.133-134

 2012年160万の移民がEUに入る。非合法移民は不明。シリア、イラクリビア、マリ、スーダンの紛争で何百万もの人が家を失う。p.135

 シェンゲン協定は域内移動のため。移民の多くは都市部に住む。ヨーロッパへの大量移民の衝撃派は本もの(ポール・シェファー)。p.139

 「多文化主義は失敗。ムスリム共同体はドイツに統合されない。ドイツは分断される。

」とティロ・ザラチンは言う。p.143「隣同士で幸せに取り組み、お互いに楽しむ。その取り組みに完全に失敗した。」とアンゲラ・メルケル首相。p.145

 多文化主義という言葉はあまりにも汚れてしまったので、使うのをやめて、文化間主義と言ったらどうか。p.152

ヨーロッパという考えはEU以前はあまりなかった。p.162

地域紛争の大部分の種はヨーロッパがまいたもの。p.164

2005年開始のヨーロッパ排出量取引制度(ETS)。仕組みが複雑になりすぎて機能不全になっている。p.170 国連での討議も失敗した。

消費ベースの排出量を公表すべきだ。中国の温室効果ガス排出量の1/3は輸出用である。イギリスのCO2排出量は1990年以来通常の計算では18%減少したが、純輸入と輸送を考慮すると同期間に20%以上増えたことになる。p.181

エネルギー政策。EUの電力の30%は原発。安全性、使用済み燃料処理の問題があるがCO2排出量削減の効果は大きい。トリウム発電なら問題ない。この研究は中国が熱心である。p.184

ドイツは2022年までにすべての原発を閉鎖する。風力と太陽エネルギーに傾斜する。pp.185-186 石炭は問題が大きい。シェールガスがより問題が小さい。二酸化炭素貯留(CCS)が対策になるか。

安全保障政策。米ソの敵対は半世紀続いたが、ソ連が一夜で消滅するとは誰も考えなかった。p.197

 NATOは米国に依存するEUの防衛力のモラルハザード。p.207