『中国はなぜ軍拡を続けるのか』(阿南 友亮著、新潮選書、2017年8月25日発行)

中国がGNPで大国となり軍事費も米国に次いで多くなっている。空母まで備える中国海軍の軍拡は日本を含む周辺諸国への大きな圧力となっている。本書は中国がなぜ軍拡を続けるかを、中国の軍が国軍ではなく共産党の私的軍隊であるという観点から整理している。専門の研究者だけあってさすがに良く調べて書いてあり、目からうろこの落ちる箇所が多い。

1969年以降中ソ間の大規模国境紛争の多発化により、毛沢東は米国寄りに路線を変更する。1972年ニクソンの電撃中国訪問で米中接近。日本も国交を回復する。中国と西側の関係は、1970年代に一次修復された。1980年代に共産党幹部や軍の幹部は金もうけの味をしめた。これに対する不満と民主化要求が生まれ、胡耀邦趙紫陽らの改革派が努力するも、第二次天安門事件までに失脚する。

第二次天安門事件の後、上海閥江沢民の時代となる。江沢民は軍経験はなく軍の将軍を後見人とし解放軍と共生関係を作る。その結果国防費が増大した(p.208)。江沢民の時代に改革・開放の中で開放の部分をおざなりにして格差の拡大、腐敗の反乱、暴力依存症としての軍拡のルーティーン化となった。(p.329) 

1989年5月の第二次天安門事件で経済断交となるが、日本が1990年に他国に先駆けて円借款を再開、1992年以降は西欧が次々に経済関係を修復する。これにより、鄧小平の改革・開放の続行が可能になる。

西側諸国には中国の経済が豊かになれば民主化するという思惑があった(関与政策)。⇒しかし、中国では経済発展による中間層の増加に関わらず、民主化の動きは生まれていない。関与政策は概ね失敗だった(p.232)。

13億を上回る民衆の経済水準を改善するには毎年8%のGDP成長が必要(保八)(p.220)。

中国は西側の思惑を満たすための対策として、沿岸地区経済発展戦略と米国債の購入を用意した。(p.224)また米国への投資や米国からの輸入。米国との「共通利益」政策。

2010年尖閣沖漁船衝突事件で日中関係は足踏みとなる。(p.231)

EUとの関係構築AIIB。

89年以来の和平演変論=西側陣営は70年代以降、経済や文化という手段で中国社会の価値感を動揺させ中国における社会主義体制の瓦解を目指したという論。しかし、共産党対民間社会という国内対立は共産党自身が招いたものではないか。(p.225)

2002年から10年、次の胡錦涛は調和のとれた社会と調和のとれた世界を旗印にあげた。しかし、上海閥の返り討ちに合う。

2012年、次の習金平は中華民族の偉大な復興という中国の夢を語る。これは江沢民の編み出したサバイバル術の踏襲である。(p.330)

台湾の統合は中国共産党の悲願である。南シナ海スプラトリー諸島における拠点構築は、劉華清の戦略に基づいており最終目標は南シナ海制海権と制空権の掌握にある。台湾有事の際に米軍を近づけないようにするためのもの。(pp.275-280)

中国との付き合いは難しい。中国が豊かになれば、民主化し、グローバル社会への適応をすすめるという日本など西欧諸国の期待は外れた。経済が豊かになっても国民には分配されず国民の不満がたまり、国内の紛争が増える。共産党はこうした中国国内の問題を解決しないまま中華民族の復興という旗を掲げ、国内で西欧諸国、特に日本との対立をあおる教育を進める。このため米中・日中の対立がエスカレートする。対立がエスカレートしても、共産党は排日教育を進めてきた関係上、日本に妥協できないという自縄自縛となっている。

日本の対中政策はオーバーホールする必要がある。従来の西側と中国の関係は中国の民主化にはつながらず、独裁政権の体力を増殖させ、中国国内・国際社会における緊張関係を増大するという現実に向き合うべきだ。(p.338)

2019/11/10(私見追加)

先週は中国側が米中貿易交渉で、追加関税を徐々に減らすことで合意ができたと発表した。そのあと米国側(トランプ大統領他)が合意していないと反発している。米中貿易交渉の行方は世界の経済に大きな影響を与える。しかし、本書を読むと、必ずしも経済的な側面だけで物事は考えない方が良いと思う。中国が台湾を諦めるなら別だが、台湾を取ることを視野に入れているとすると中国が力をつければつけるほど戦争の危険が高まるだろう。