『ウォール街のランダム・ウォーカー 株式投資の不滅の心理』(バーキン・マルキール著、日本経済新聞社、2016年3月9日発行)

ファンダメンタル価値は投資対象には絶対的な価値があり、それは現状分析と将来予測を注意深く行うことで推定できると考える。砂上の楼閣派はケインズ美人投票論に代表される。

1959年米国はトロニクスブームの成長株コンセプトでPERがプラス15倍、意味不明の社名で倍になる。1962年に瓦解した。IBM、TIの株のPERは80倍以上だったが1年後に20~30倍となる。

PERのより低い会社と合併すれば、一株あたり利益が成長しているように見せかけることができる。米国では1960年代合併により利益成長を演出するコングロマリットブームを生んだ。1960年代末コングロブームは自壊した。

1960年代後半はパフォーマンスブーム。コンセプト株、下落率98%。

1970年代ニフティフィフティ 優良大企業への投資。1972年⇒1980年PER ソニー 92⇒17、マクドナルド83⇒9、ウォルト・ディズニー76⇒11、HP65⇒18など。

1990年代末から2000年代初めのITバブルはもっとひどかった。例えば、アマゾンは2000年に75.5ドル、2001~2002年の安値では5.51ドル。下落率92.7%。未曽有の新規公開株ブームでは2000年の第1四半期だけで916社のVCが1009のインターネット新興企業に157億ドルを投じた。2002年ワールドコム倒産。ITバブル下でテレコム業界への1兆ドルの投資が行われたが蒸発した。インターネットバブルは米国株式市場最大のバブルであった。

資産バブルが破綻したとき傷つくのは投資した人間だけではない。実体経済に深刻な影響を与える。

市場は株式に誤った価格を付けることがあるが、いつかは適正な価格に戻る。

テクニカル分析とは株価チャートを分析する。株価の動きの90%は合理的説明がつかないと考える。著者は過去の株価の記録を用いて将来を予測しても利益を得ることはできないと考えている。1960年代から1990年代半ばまでの30年間に起こった大きな上げ相場の95%が全取引日の1%強に過ぎない期間に起きている。⇒バイ&ホールド戦略が優れている

ファンダメンタル分析は逆である。

一般理論

・株価収益率は企業の配当や利益の期待成長率に比例している。期間が長ければ株価はより高くなる。

・現金配当や自社株買いが多いほど株価は高くなる。

・リスクが小さいほど株価は高くなる。

金利水準が低いほど株価は高くなる。

しかし、情報や予測は必ずしも正しくない。著者の規則は次の通り。

〇利益成長率が5年以上にわたって市場平均以上の株を買うこと。成長可能性が重要。

〇株価がファンダメンタル価値以上になっている銘柄には手を出すな。

〇投資家の受けがいい、ストーリーを作れる銘柄を探す。

企業の過去の経営実績と将来の成長の間には信頼に足る因果関係はみられない。アナリストの予想は単純な過去の延長よりも精度が良いと言えない。証券アナリストは業績予想ができていない。経営成果は偶然に左右される、利益の捏造、アナリストは利益相反、などなど。

投信のファンドマネージャーもお粗末。プロが運用する大型株式投信もランダムに銘柄を選んで作ったポートフォリオもパフォーマンスは変わらない。卓越したパーフォーマンスもあるが偶然でも起きうる。

非常に長い期間でみたときの株式投資(株式を買って永遠に保有し続ける投資家を想定する)の平均リターンは、足下の配当利回りと、今後の一株当たり利益、配当の成長率である。

投資期間が1年から数年の場合は、第3の要因である市場の評価水準の変化が重要である。PER、株価配当倍率など。この変化量は大きい。金利水準が低いと株価収益率は上がる。高金利のときは下がる。

1969年1月から1981年12月は配当利回り3.1%、1株利益成長率8%だったが、PERが-5.5%だったため年平均総リターンは5.6%にとどまった。PERが下がったのはリスクの増大に対する反応である、と解釈する。

1982年1月から2000年3月は配当利回り5.8%、1株利益成長率6.7%だったが、PERが5.7%だったため年平均総リターンは18.3%となった。PERの変化が大きい。 

2000年4月から2009年3月は配当利回り1.2%、1株利益成長率5.8%だったが、PERが-13.5%だったため年平均総リターンは-6.5%と失望の時代となった。

著者の進めるルール

1.少なくとも5年間は、一株当たり利益が平均を上回る成長を期待できる銘柄のみを購入すること。

2.企業のファンダメンタル価値が正当化できる以上の値段を払って株式を買ってはならない。

3.近い将来「砂上の楼閣」作りが始まる土台となるような確固たる成長見通しのある銘柄を購入すると良い。

4.なるべく売買の頻度を減らすべし。

この本は総じて個人の資産運用を対象としている。法人は想定外だろう。個人となると、日米でいろいろな制度の相違もあるので日本に適用するのは難しい気がする。

本書は株式市場が効率的であるという説をもとに、インデックスファンド投資がもっとも良いとしている。しかし、投資開始時期によっては必ずしもそういえない。例えば、日本では日経平均はまだ1989年の最高値を超えていない。1989年に日経平均連動ファンドを買ったとしたら、いまだに報われていないのである。極論すれば、結局のところ、買うタイミングの問題ということになるではないか?