『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国となるか』(デービッド・アトキンソン著、講談社+α新書、2019年9月19日発行)

中小企業の生産性は大企業よりも低い。中小企業で働く人の多い国は国レベルの生産性が低い、というのは横断的国際比較としては、大雑把に見て正しいだろう。米国の生産性が高いのは大企業で働く人の割合が多いからかもしれない。但し、これはある時点で切った時の横断図である。

※ちなみに、ページ96と97のグラフは表数値と線が一致していない。例えば、米国の生産性は表では49千ドルになっているが、図の中の折れ線では59千ドルあたりにある。表が間違い? 

※一方で、例えば、経年変化に関するデータは提示されていない。日本の生産性が上がらない理由としての分析は足りないと思う。ほかの国は時系列でみて、企業規模が大きくなるにつれて生産性が上がっている、というデータは提示されていない。

※グローバルに働く企業を育てていないことと、中小企業の生産性が低い問題は、別の問題だと思う。別の問題をあたかも同根であるかのように扱うのは正当ではない。

中小企業基本法が生産性が上がらない最大の問題である。中小企業の定義はEU、US、日本でだいぶちがうようだ。

※このあたりも本書ではあまり明確に理解できない。

       EU   US    日本小売り サービスと卸売 製造

ミクロ企業  1-9   1-9

小規模企業  10-49  ??   50人以下  100人以下   300人以下

中堅企業   50-249 500人

大企業    250-

中小企業への優遇税制は多いが、設計ミスだ。これにより、中小企業が爆発的に増えた。

最低賃金云々もわからなくはないが、自己矛盾している。例えば、最低賃金を上げろと言いながら、最低賃金で働いている労働者は全中小企業の約1割なので、仮に最低賃金を上げて倒産する会社が出ても、大量の失業者は溢れないという。ならば、最低賃金を引き上げても約1割にしか影響がないのではないか。

※著者の言いたいことは、中小企業の生産性を上げるために集約して規模を大きくせよということだろうと思うが、この本のようにいたずらに相手を悪者扱いにして責めても改まらないと思う。この著者は説得が下手すぎる。

※主張したいことに対する裏付けのデータ分析も足りないだろう。

※中国の属国となるとか、大地震が立て続けに起きるとか、妄想に近い話をような持ち出して恐怖をあおるのも説得のやり方としてへたくそ。

※アナリストだったというなら、もう少しデータをキチンと整理して間違いないように示し、また説得の仕方を変えないと受け入れられない。まずは、中小企業が有利になっている税制を変えないといけないのではないか?

※の付いたセンテンスは批評文