『プログレッシブキャピタリズム』(ジョセフ・E・スティグリッツ著、東洋経済新報社、2020年1月2日発行)

アメリカの資本主義はあまりにも一部の人に富が集中する結果に終わっている。アメリカは、全体として以前より遥かに豊かになっているにも関わらず、富が一部の人に集中してしまった。所得階層の上位1%と残りの99%の間に「大分裂」がある。19世紀末の「きんぴか時代」以来の格差の拡大となった。貧困にあえぐ人が増えたため、全体としてみれ生産性が伸びなくなっている。アメリカの多くの人が希望とした中流階級の生活は遠ざかっている状態である。

その原因の一旦は経済の失敗にある。製造業中心からサービス業中心の経済の変化にうまく対応できず、金融産業への規制の失敗、グローバル化の影響を管理できなかった、企業の市場支配や超過利潤を防げなかったことにある。グローバル化で置き去りにされた人たちは教育を受けていない男性だ。2008年金融危機では多くの人が住宅を失ったが、金融企業の幹部は責任を問われず、多額のボーナスを受け取った。

40年前レーガンサッチャーなどが唱えたサプライサイド経済学は失敗だった。レーガンの1981年の減税により、莫大な財政赤字、成長鈍化、格差の拡大が始まった。トランプも同じことをしている。レーガンは口では自由主義を唱えたが、保護主義政策をとり日本には輸出規制をさせた。

本書では第1部でアメリカの問題を整理し、第2部で政治と経済の再建について述べる。前提としている考え方は次の9項目である。

1.市場は不完全であり、市場の力に頼るだけでは経済は適切に機能するとは限らない。

2.国富は知識の増加と優れた社会組織によって増える。

3.国の富と個人の富を混同してはいけない。市場支配力を使って個人が富を得る、不労所得(レント)の追及は再分配であり、国の富の増加にならない。

4.分断の少ない、格差の少ない経済の方がうまくいく。経済が成長すればだれでもその利益にあずかれる、トリクルダウンの理論は間違っている。

5.豊かさの共有には、分配と再分配の両方に目を配る必要がある。経済的優位、格差は世代を超えて引き継がれる。

6.政府は競争のルールを決めるという点で重要な存在である。

7.アメリカ流の資本主義がアメリカ人のアイデンティティになったが、より高い価値観との衝突を起こしている。

8.移民排斥、保護主義者は現在の苦境を他人のせいにしようとするが、問題は自分たち自身にある。

9.包括的な経済政策、格差の縮小の除去、バランス回復が必要である。

フランシス・フクヤマは、ベルリンの壁崩壊後に「歴史の終わり」を宣言したが、その後の進展は、そこで予想したこととは正反対の方向にいっているようだ。

本書のみではなく、最近、読んだアメリカの経済・政治・社会に関わる本を読むと、既にアメリカは我々日本人にとっては、理想とするモデルからかけ離れてしまったと強く感じる。