現在の常識になっている麻薬取締の枠組みは、米国の連邦麻薬局長となってハリー・アンスリンガーが中心になって作り出し、国連を通じて国際的に広まったものという。日本でもGHQの占領時代にそれまでは自由であった大麻(マリファナ)が非合法化された。
麻薬の販売を禁止すれば闇の販売組織が蔓延る。禁止したからといって依存者が減るわけではなく、依存者はなんとかして入手しようとするので犯罪組織にとって莫大な利益源となるからだ。
本書では、徹底した、広範な取材によって、麻薬を非合法化して取り締まりを行った結果の実態をまとめている。これはかなり悲惨な物語である。
禁酒法時代にビールがなくなり、アルコール強度の高い酒にシフトしたように、麻薬を禁止すれば扱われる麻薬は強いものとなり、価格が上がり品質も保証されなくなり、悪化、依存者による犯罪が増えて良いことはない。
一方、依存者への医療や支援を行っている経験からは、薬物依存者が増えるのは、幼いころのトラウマや、その後に生きているのがつらくなるためであるということが分かっており、むしろ社会とのつながりを回復することで依存症を克服できる人が多いという。
禁止状態を維持したり、依存者をとらえて刑務所などで管理する費用もかかる。米国・ワシントン州では、マリファナ禁止のコストを訴えて、住民投票を行った結果マリファナが合法化された。
一方で、麻薬を自由化すれば、消費量が増え、依存者が増えるという意見があり、まだ踏み切れない。合法化したとき、どういう制度を作ると良いかは難しい問題である。
マリファナよりは酒の方が危険という説もあるが、日本では酒のような合法薬物には寛容だが、大麻や覚せい剤のような違法薬物にはきわめて不寛容である。しかし、本書を読むと、特に麻薬取り締まり法は、誤った認識に基づいて作られている印象が強い。
(参考)日本の「大麻政策」がここへきて激変中…来年の春から始まる「これだけの変化」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/84987