『鉄のカーテン 東欧の壊滅1944-56 上巻』(アン・アプルボーム著、白水社、2019年3月発行)

第二次大戦の終了で、ソ連赤軍)の占領地帯となった東欧でどのように全体主義化が進んだかのレポートである。東欧の中で、ドイツ、ポーランドハンガリーの3国に焦点を当てている。スターリンは、人間の性格は教育で作り替えることができて、それは遺伝するという考えに取りつかれていたようだ。後天的性格が遺伝により受け継がれる可能性があるという「ルイセンコ理論」を支持。(pp. 241-242)

ドイツ軍による侵攻と支配のあと、赤軍によって解放されたと考えたのもつかの間で共産主義によって支配されるにいたった東欧の多くの人々の失望、あるいは、混乱の中で命を失ったり、ソ連の収容所にとらえられたり、あるいは、民族の強制的な移動など、日本では想像もつかないような悲劇が起きていたのだ。

全体として、終戦時の混乱と、当初は民主的な姿勢を見せていたにも関わらず、徐々に支配的になっていったようだ。警察力を使うだけではなく、あらゆる活動をイデオロギー優先で支配する国家権力の強さ・怖さ、プロパガンダ政策への傾斜を描いている。

ヤルタ条約では民主的選挙プロセスを約束していたのにも関わらず、戦後直ぐに赤軍は訓練した警察要員を東欧に送り込み、反ソ活動の取り締まりや民族浄化を始める。

pp.304~pp.310あたりのポーランドの見せかけの民主選挙での「3回イエス」キャンペーンは、ナチスの選挙キャンペーンとまったく同じ様相だ。ソ連ナチスはほとんど同じ体質ということだろう。

経済については、土地改革から始まった。次いで自由市場は政府の統制によるものとなる。そして工場の国有化。固定価格と中央の計画は市場をゆがめ企業間の取引を困難とする。物々交換が始まる。

『鉄のカーテン 東欧の壊滅1944-56下巻』(アン・アプルボーム著、白水社、2019年3月発行)

 

第一次大戦後の混乱については次の本がある。本書を読むと第二次大戦の終わりについても同一の側面がある。それは国家の境界線と民族の境界線の問題である。一方において、第一次大戦と第二次大戦の終わりで様相の異なる問題は、強大なソ連赤軍の支配地では、ソ連方式の警察・活動統制・政治体制に移行したという面になるのだろう。

『敗北者達 第一次世界大戦はなぜ終わりそこねたのか 1917-1923』(ローベルト・ゲルヴァルト著、みすず書房、2019年2月発行)