『ジェインズヴィルの悲劇 ゼネラルモーターズ倒産と企業城下町の崩壊』(エイミー・ゴールドスタイン著、創元社、2019年6月発行)

ジェインズビルは、ウイスコンシン州ロック郡の郡庁所在地の街で人口は6万人余り。万年筆のパーカー・ペンとGMの組み立て工場があった。GMの工場は1923年から稼働しており、下請け企業を含めて大きな雇用を生み出していた。時給が高く、働く人たちは中産階級に属していたようだ。祖父から親子の代まで従業員という家族もあり、帰属意識は強く労使関係は良かった。しかし、2008年12月のクリスマスの2日前、最後のタホがジェインズビル組立プラントから出て、GMの工場は稼働終了する。2007年12月からのグレートリセッションで、ガソリンがば食いのSUVタホの人気が崖から落ちたためだ。

GMの工場閉鎖の連鎖により、2009年4月下請け工場のリア・コーポレーションが閉鎖される。

パーカー・ペンはすでにほかの会社に代わっていたが、2010年にその痕跡の会社もメキシコへ移転する。

本書は、GMの工場に勤めていたジェラード(ホワイトエーカー家)、ウォパッド家(マーヴ、マット)、リア社のクリスティ、ヴォーン家(マイクとバーブ)、元パーカー・ペンのリンダ・コーバンなどとその家族たちが失業してからどうなったか。収入減や新しい職を求めての苦闘の物語が中心である。それにソーシャル・ワーカー、学校の教師、財界人、政治家たち、地域社会のリーダーといった多彩な人物が登場する。2008年から2013年まで長期間にわたる取材を続け年月の経過による変遷、そして登場人物の心情までを生き生きとしたストーリーとして描いているのが素晴らしい。

アメリカ人の典型として楽天的な彼らは、職を得ていた時代に、収入額目一杯の生活(プール付きの住宅をローンで買うなど)をしているためあまり貯蓄がなく、失業でたちまち生活に困る人が多かったようだ。

一方で、アメリカ特有のコミュニティ活動がある。希望の袋(貧困家庭に食料を寄付で届ける)、ECHO(食料配給所)、フードスタンプ、パーカー・クロゼット、孤児の避難所設立運動(16:49)といった多彩な社会支援活動がある。

なにか欲しいものがあれば一生懸命働くように教えられ、いままで支援する側だった立場から支援を受ける側に回ったときの困惑や恥辱の心情が語られる。また、支援をうけようとしても待ち行列や条件があって受けられない悲しさもある。

アルバイトをいくつも掛け持ちする高校生の娘たちの方が親よりもお金がある。そのお金で家族の空っぽの冷蔵庫をいっぱいにする矛盾。

クリスティは、リア社がなくなってしまったあと、政府の補助金を得て、ブラックフォーク技術大学で刑事司法制度を学ぶ。トップで卒業して刑務所に就職する。しかし、そこで待っていた人生の落とし穴。

人生にはいたるところに落とし穴があり、考え方をしっかりしないと落とし穴にはまる。本書はアメリカ人の考え方、コミュニティ活動、日々の生活を生き生きと描き出す。まさにこれがアメリカ人と言える。よくこれだけの取材をした。素晴らしいドキュメンタリーである。