『日本の景気は賃金が決める』(吉本 佳生著、講談社現代新書、2013年4月20日発行)

「モノやサービスの物価がじわじわと下がる現象を、デフレと呼んでいます。」p.12(※そうなのか? 急激に下がったらデフレではないのか?)

景気と賃金格差の話をしたい。

低所得層は消費性向が高い80%~高所得は低い70%⇒低所得の人達は景気回復への貢献度が高い消費行動をする。「平均消費性向=景気回復への貢献能力」p.16(※この方程式は正しいのだろうか?)

賃金デフレとは、「賃金がじわじわと下がる現象」。1998年から起きて2012年までは続いている。p.13

物価デフレ、賃金デフレなどは予想の自己実現が起きやすい。p.31

1998年10月を境に消費者物価が下落する傾向に転じた。

名目GDPは1997年をピークに減少に転じた。

実質GDPは「数量の増減率」。成長率は実質GDPで考えるべき。1997年から2011年にかけて実質GDPは通算7%増加した。

日本経済がクリアすべき経済成長率のハードルは米国より高くてもおかしくない。p.38

物価の下落とデフレは区別するべきだろうが、デフレ対策が必要という主張は次の議論を組み立てたもの:①物価下落と不況は悪循環を引き起こすのでデフレは深刻な不況に繋がる。②不況は解消すべき経済問題である。

不況が悪なのは、不況が原因で失業率が高くなるから。なので、失業問題は政府が取り組むべき問題である。

日本の雇用は次の2点で悪化している:①長期失業者が増えている、②非正規雇用者が増えている。

受給ギャップは2%は納得できない(p.64)(※作れば売れるというモノではないだろ)⇒どうやら著者は需要不足がもっと大きい。つまり需要をもっと大きく出来ると考えているようだ。需給ギャップの考える方向が違う。

消費者物価指数(コア指数)は1997年から2011年まで年平均0.23%下落した。

現金給与は同期間に年平均0.92%下落した。この結果、消費者が消費を伸ばせなくなった。

第2章 金融政策が日本の景気を悪化させた。 日銀の金融緩和により円が海外に流れてドルになり資源価格を高騰させた。資源価格の大部分は原油。日本の輸入物価は上昇した。しかし、消費者物価は上昇しなかった。結局、中小企業は輸入物価上昇分を販売価格に転嫁できず、賃金を減らした。このため日銀の金融政策により、賃金デフレが悪化するという結果になった。(※この部分の分析は説得力があるし、なんとなく中小企業経営者の実感にも一致するだろう。)

 第3章 金融政策の基本。金融緩和より金融引き締めがやりやすい。インフレ目標は国民が信じるかどうかに掛かっているなど。(※とても分かり易い説明である。)

第4章 消費者物価には総合、コア(生鮮食品除く)、コアコア(生鮮食品とエネルギーを除く)があって、どれを見て2%と言っているが明確ではないが、コア指数は2000~2012年は年平均0.3%減。コアコア指数が0.6%減。コア指数は2008年7~8月に2%増になったことがある。

輸入物価指数は2004年~12年に契約通貨表示で70%、円表示で40%上昇。円高なので円表示では小さい。大規模緩和で25%円安になり、輸入依存度16%とすると4%アップとなる。(※全部円レートの影響を受けるとして)。物価があがる可能性はあるが、景気に繋がらないと意味はない。

金融緩和はどこかの資産価値をあげる。80年代の緩和は日本で株と土地のバブルを、200年代半ばの緩和は米国の住宅バブルを起こした。世界のどこかでバブルが起きて日本の景気に影響を及ぼす。国内バブルは国内好景気ー賃上げに繋がったが、海外バブルは国内景気は逆の影響になった。89年からの金融引き締めでは物価が上がった。緩和したら逆に物価が下がったなど。このように物価も理論通りではなかった。 

 (※本章の財政政策の部分はちょっと竜頭蛇尾ナ?)

第5章 日本の景気を回復するには民間消費を増やす必要がある。年収300万の世帯の限界消費性向は85%、年収1000万の世帯は52%。なので、景気回復策=賃金格差縮小策。労働経済白書H23年版によると1998年頃を境にすべての年齢層で賃金分布の形が変化して、所得中間層が減って格差が拡大した。非正規雇用者は職業訓練を受けにくいので、非正規雇用者の増大は生産性の向上にもマイナス効果になる。

男女格差、勤続年数格差が大きい。企業規模による格差も大きい。それが就活熱心な理由である。

第6章 女・小・非・短の賃金をあげる政策を考える。世帯主の勤め先産業別所得は、宿泊・飲食サービスが一番低い。日銀の政策としては、都市部の不動産価格をあげるのは一番良い。人口を都市部に集めろ。内閣府『地域の経済』を読むと良い。都市部の人口密度が上がると、例えば宿泊・飲食サービス業の従業員数は1.53倍になる。これらはおしくらまんじゅう政策である。