『感染症は実在しない』(岩田健太郎著、インターナショナル新書、2020年4月28日発行)

「実在する」という言葉の意味合いがあまり明確に理解できなかった。より正確には、共感しなかったというべきか。

たぶん、リンゴが実在するというのは「もの」として目の前にあって、見方によってなくなったりするものではない、ということなのだ。一方、病気はそういう見る人によって変わらない「もの」として存在するのではなく、医師がこの人は病気だと見立てて初めて認識される「こと」である、という意味らしい。

感染症は現象である。インフルエンザは、急に熱が出てのどが痛くなって1週間以内に治ってしまうことの多い病気であるとされてきた。しかし、インフルエンザウィルスが発見されて「もの」として扱われるようになってきた。

新型インフルエンザは感染症法でものとして扱うことで対応手続きが形式的になる。例えば、神戸市で見つかった新型インフルエンザ第一号の高校生は自宅で既に症状が改善していたにも関わらず、指定医療機関に入院させた。しかし、そういう扱いは却って感染を広げるリスクが大きくなる。

本書で一貫して主張しているのは、「病気は医者によって恣意的に認識された現象である」という主張である。それは分かるが、それに対して「感染症は実在しない」という言い方や本のタイトルがふさわしいのだろうか? どうも違和感を感じる。