1995年ザイールのキクウィト市で発生したエボラウィルス感染症に対する米国疾病対策センター(CDC)の対策班の活動を伏線に、CDCの歴史、さまざまなウィルスや細菌による感染症対策の話をちりばめた物語である。
マールブルグ、ラッサ、エボラという出血性ウィルストリオは凶悪だが、出現する頻度が少なくて宿主を見つけるのが大変であった。マールブルグは30年で10人を死亡させただけで、宿主がわかっていないようだ。エボラはけっこう頻繁に出ているようだ。チンパンジーやサルに感染して米国でも発生したようだ。マールブルグやエボラウィルスが細胞に侵入する様式もわかっていない。
エボラウィルスの話は本書の伏線で、むしろCDCの活動が中心の物語になっているせいか、ストーリーが複雑に込み入っていて非常に分かりにくい。いろいろなウィルスが登場しすぎて、その分、読後の印象が弱くなっているような気がする。
印象に残ったのはむしろCDCの失敗例である。1918年に世界的に大流行したインフルエンザは世界で2100万人、米国で50万人の死亡者を出している(p.194)。1976年2月14日バレンタインデーにディックス陸軍基地で発生して新兵が死亡した豚インフルエンザは1918年のインフルエンザと分子構造が似ているということで大騒ぎになった。3月15日までに米国で100万人が死ぬという推定となり、フォード大統領は1億3500万ドル支出を発表し、4月15日に法律となった。ワクチンの接種が始まった10月1日時点では豚インフルエンザが出現しない確率は98%という推定となった。豚インフルエンザは来襲せず、逆に予防接種によるギランバレー症候群の死者が58人になった(pp.193-200)。
本書の最後では、結局ウィルスはあまり脅威ではないという結論が示されているが、2020年に起きている新型コロナウィルス(SARS-Cov-2)による感染症(COVID-19)の様相をみたら、その人たちはなんというんだろうか。