『パンデミックが露わにした「国のかたち」』(熊谷 徹著、NHK出版新書、2020年8月10日発行)

新型コロナウィルス(COVID-19)に襲われた欧州、主にイタリアとドイツの対応状況をまとめた本である。著者がドイツに住んでいるということで、ドイツの事情が比較的詳しくまとめられている。

イタリアで爆発的に広がった原因は、2月19日にミラノで行われた欧州チャンピオンズリーグの決勝トーナメント一回戦、アタランタベルガモとスペインのFCバレンシア戦という。人口12万人のベルガモ市から4万4千人のファンが試合を観戦しにやってきた。その後、ベルガモ市では新型コロナウィルス感染が広がった。当初は市民も、自治体首長達もウィルスの脅威を軽く見たため死者数が大幅に増えた。イタリア保健当局も、ベルガモ県での感染拡大に気が付いていなかった。ベルガモ市の封鎖は3月8日である。3月10日はイタリアで外出禁止令が敷かれた。

ドイツは感染者数は7月7日時点で20万人だが、死者数は9千人で比較的少ない。死亡率も低い。ドイツはPCR検査数が圧倒的に多い。ドイツ感染症研究センターのドロステン教授のチームが、COVID-19のPCR検査方法を1月16日に世界で初めて開発し、WHOに開示した。ドロステン教授はこれを全国、世界に公開した。これによって2月中旬までに検査を広範囲に実施できる態勢を整えた。4月19日時点でドイツの累積PCR検査数は173万件、イタリア131万、フランス46万、英国36万、日本16万である。ドイツは民間検査機関を認証して検査を委託することで検査数を拡大した。2020年5月で認証済検査機関250、900人の専門医、2万5000人の検査員がいる。(日本のPCR検査戦略は、当初は感染研が民間のリソースに頼らずに検査しようとした。)ミュンヘン郊外の自動車部品メーカーで1月下旬にクラスターが発生した。2月下旬のカルネバル(謝肉祭)の休暇で流行が拡大した。ドロステンは大流行を予見して政府に進言。ドイツのICUは欧州で最多。医療システムが崩壊することはなかった。

ドイツでは2012年のロベルト・コッホ研究所などによる「2012年防災計画のためのリスク分析報告書」でパンデミックを想定し、準備を進めていた。

3月上旬は企業のテレワークなど独自に始まっていた。政府によるドイツのロックダウンは3月18日にメルケルのテレビ演説があり、3月23日から実施。外出・接触制限令として。4月下旬までは支持率が高かった。メルケルの説明には論理性、わかりやすさ、透明性があった。しかし、5月に入って各州政府が解除に向けて走り始めた。5月16日ルクセンブルグ国境での検査廃止。6月15日にフランス、オーストリア、スイスとの間の国境検査も廃止。感染者増加にそなえて非常ブレーキ:実効再生産数、1週間の人口10万人あたり感染者増加数、病院のICUベッド稼働率の3項目。

ロックダウンは経済への悪影響が大きすぎる。ドイツのGDPは、2020年6.3%減少し、第2次大戦後最大の落ち込みとなる。コロナ緊急援助金は素早く支払われた。2014年以来毎年財政黒字を計上(G7で唯一)していたので、大きな対策が打てた。

新型コロナウィルスは夏場は比較的活動レベルが低いが、秋から冬にかけて再び猛威を振るう可能性がある。すぐには片付かない。日本とドイツの新型コロナウィルス感染症対応状況をみると国のかたちの違いが浮かび上がる。ドイツの場合、第2次大戦に至るまでのナチへの反省もある。