本書はボラティリティを中心にした運用リスク評価尾をシミュレーションを通じて理解してもらおうというものである。金融商品のボラティリティとは、変化率の標準偏差のことである。ボラティリティが大きい金融商品はリスクが大きいという。本書の金融商品とは主に仕組債のことのようだ。リーマンショックなどの際に様々な機関投資家が仕組債で大損を被ったのは、リスクの評価を誤っていたためというのが著者の考えである。
株価、日経平均や円相場などは、日次、月次の変化率の分布を調べると正規分布に近くなる。ボラティリティは時間によって変化するが、一般に、個別銘柄株価のボラティリティが一番大きく、次いで、日経平均、対豪ドル円相場、ドル円相場の順でボラティリティが小さくなる。一番小さなドル円のボラティリティは年率11%であるが、このとき1日に-1.3%下落する確率は4.4%となる。対豪ドル円相場のボラティリティは年率14%であるが、これだと1日に-1.7%下落する確率は4.4%である。日経平均は22%、-2.6%、4.4%である。対豪ドル円相場が確率4.4%レベルの下落は1週間-3.7%、1か月-7.5%、1年-24%となり、長期になるほど下落幅が大きくなる。期間を伸ばすと損失の規模がどんどん大きくなる。なので、資産運用において塩漬けの考え方は危険である。
現在売られている仕組債は、プットオプションを組み込んだものである。プットオプションとは、売り手は株価下落に備える保険を売っているようなもの。買い手はオプション料を払って、株価下落に備える保険を買う。期限が来て下落しなければなにもおきないが、下落した場合、売り手は保険金を払う。仕組債では、債券の買い手がプットオプションを売っている立場になる。期間中にノックインしたとき、無制限の損失が発生する可能性がある。個別株では他社株転換社債(EB債)、日経平均リンク債、などもこれに該当する。これらは、ハイリスク・マイナスリターン商品である。
銀行などではVaR(Value at Risk)という指標を使う。これはある信頼区間(例えば1%)での最大損失を計算したものである。長期投資ほど最大損失が大きくなる。一方、1%の信頼度での最大利益も大きくなる。しかし、最大利益は期間が長くなると逓減するので、1年あたりでみたときの利益は期間が長くなると小さくなる。つまり、長期投資はリスクが大きくて、利益が相対的に小さく、割が合わない。
資産運用では長期投資の方が利益を出しやすいと考えていたが、本書によると長期投資の方がリスクが大きいという。特に、仕組債では長期になると原本を大幅に割り込むリスクがある、ほとんどハイリスクマイナスリターンになっている、という。長期になるほどハイリスクになり、年率でみたときのリターンが小さくなるという指摘は、株式などの長期投資を推奨する一般的な(他の投資本にある)傾向とは完全に相反している。もう少し深く考察する必要がある。
このように本書の内容には目から鱗が落ちる思いをする箇所もある。結構難しいので本の売れ行きはどうかと思うが。