『ワクチンの噂 どう広まり、なぜいつまでも消えないのか』(ハイジ・J・ラーソン著、みすず書房、2021年11月10日発行)

ワクチンと噂、ソーシャルメディアの影響について

戦争期は世上の不透明さ、不安で噂が広まりやすい。噂は感染症の状況では「警告」となる情報を伝えることもある。2014年エボラウイルスの流行では噂が飛び交い、公衆衛生上の対応が遅れることがあった。2015年ジカ熱と小頭症がMMRワクチンによるという噂が突然広がった。

1998年ウェイクフィールドMMRワクチン(おたふく風邪・風疹・麻疹用)と自閉症についての関係を示唆する論文を発表した。20年後論文は撤回されたがまだその活動を続けており、世界中に影響を与えている。

冬眠は噂の特徴だ。

破傷風ワクチンは女児と妊婦を対象にしており、度々、不妊化の疑いをかけられている。カトリック教会がワクチンに反対したこともある。ワクチンが真の問題ではなく、不信感、自己決定、尊厳の問題だった。

個人や集団が自分に意見を聞かれたことがなく、自分の意見を尊重されないと感じたとき、反ワクチンになる。自分たちの不安を聴き、自分たちをリーダーとして扱ってくれる耳を求めている。HPVワクチン反対運動:インド、日本。日本の被害者連絡会は、ワクチンと症状には関連性がなく、心因性であるとの調査に怒る。ウェイクフィールドとトランプの会談と関係密接化。

ワクチンにはワクチン毎に異なるリスクとリスクレベルがある。2013年6月日本政府はHPVワクチンの積極的勧奨を取りやめた。この中断がリスク警告と受け止められ、2013年に70%以上だったワクチン接種率が2014年に0.6%に落ちた。その結果、中断の対価として2万4600人から2万7300人の女性に子宮頸がんが発生し、5000人から5700人が死亡するとの推定もある。

ワクチン反対は政治的な立場「メディカルポピュリズム」でもある。「メディカル・ポピュリストは、対立を煽り、既成の医学的常識に疑問を投げかけることで、タブーを破り、医療機関の慣例を破壊することを厭わない」(ギデオン・ラスコ)。

2019年1月、アメリカでは2000年に根絶したはずの麻疹が復活して、予防接種を受けていない子供の割合が最も高いワシントン州では知事が緊急事態宣言を出した。2018年ヨーロッパ全体でも麻疹の山火事が起きた。2019年1月ムンバイでソーシャルメディアで噂が飛び交い、予防接種キャンペーンを中断させた。ソーシャルメディアでデジタルな山火事が起きる。

HPVワクチン接種と同時期に起きる集団心因性疾患(MPI)。コロンビア、オーストラリア、日本(2013年)などで起きている。YouTubeで拡散されて大きな騒ぎになる。WHOは「予防接種のストレスに関連する副反応」と呼ぶことにした。

自然療法、ホメオパシーなどの代替医療を追及する運動が盛んになる。宗教が使われることもある。ワクチンがユダヤ人によって持ち込まれた。ワクチンに使われるゼラチンに豚由来の物質が使われているという風説。予防接種推進は政府の主導する計画の象徴として、抵抗の対象になる。アフガニスタンパキスタンではポリオワーカーが殺害されるケースもある。

2017年から2018年の冬、米国ではインフルエンザ推定感染者数が4500万人、80万人以上が入院、6万1千人が死亡したが、米国ではほとんど無関心であった。予防接種をしないリスクの高さを認識していないで、予防接種せずに死ぬ人が多い。

今日、かってないほどの優れたワクチンの科学とワクチンに関するより安全な規則とプロセスを有しながら、疑念をもつ市民がいるという矛盾した状況にある。