『希望の歴史(下)』(ルドガー・ブレグマン著、文芸春秋、2021年7月30日発行)

ドイツ人が第二次世界大戦終結の瞬間まで、士気が高く、精力的に戦い続けた。その理由は戦友を救いたいという友情である。イデオロギーではない。連合軍のプロパガンダ作戦は影響を及ぼさなかった。アメリカの兵士も同じで、仲間のために戦う。テロリストも同じである。

第二次大戦でなくなったイギリス人兵士の75%は迫撃砲、手榴弾空爆、砲弾でなくなった。つまり遠隔操作である。心理的距離が近い人を殺すのは難しい。近年の軍隊は、兵士の射撃率を高める訓練を施す。兵士の発砲率は朝鮮戦争では55%、ベトナム戦争では95%に達した。指導者は敵と距離をとれる。

権力が腐敗する理由。古びた三菱車かフォードの小型車を運転する人は横断歩道を渡る人を見ると一時停車する。しかし、メルセデスを運転する人は一時停車しない人が多い。高級車になるほど運転が乱暴になる。BMWが最悪。権力は人を近視眼的にする。「権力は腐敗し勝ちだ。そして絶対的権力は、絶対的に腐敗する」(英国アクトン卿)。人の社会的ネットワークは150人ほど。しかし、大きな事業をするには足りない。そこで、支配者は神を作り、人間を並外れた規模で協力させる。神話を信じないと危なくなるように思いこませて、王になる。現代でも、法律で支配する。

ピグマリオン効果。先生の高い期待が生徒に影響する。経営者の期待が従業員のパフォーマンスを上げる。逆はゴーレム効果。期待されないとパフォーマンスが下がる。

ヨス・デ・ブロークの在宅ケア組織ビュートゾルフ。資本主義者はニンジンに頼る。共産主義者棍棒に頼る。いずれも人間に対して冷笑的である。しかし、報酬は時としてモチベーションを下げる。ブロークは自律的チームと不干渉マネジメント。最大12人からなるチームが自治をする。自分たちでスケジュールを組み、自分たちで仕事仲間を雇う。フランスの自動車部品メーカーFAVIも同じ。

英国の冒険遊び場。オランダの学校アゴラ。構造化されていない学校。子供に自由を与える勇気があるか?

当選したら権力を住民に譲り渡す。ベネズエラのトレス。市民参加型予算をもつ自治体。ブラジルのポルト・アレグレは1989年予算の1/4の使い方を市民に委ねる。2016年には1,500超の都市がなんらかの参加型予算編成を行っている。コモンズ。アラスカ州の永久基金

ノルウェーのリゾートのような刑務所。受刑者にかかる費用はアメリカのほぼ二倍だが、再び犯罪に走ることがないので元が取れる。

米国でもノルウェーのような刑務所システムを作るアイデアがあった。1965年7月ジョンソン大統領招集による委員会で提案されたが、マーティンソン報告の「矯正という考え方は人間の本性に逆らっており、腐ったリンゴは捨てた方が良い」という主張で新しい刑務所を作る試みは打ち切られた。

ウィルソンの割れ窓理論「割れた窓をそのまま放置したら、じきに他の窓もすべて破壊されるだろう」。犯罪の伝染理論。ニューヨーク市警のブラッドンはウィルソンを信奉し、ニューヨーク市警交通部門で採用した。犯罪率が減少し、成功したかに見えたが。結局は取るに足りない逮捕を増やしただけに終わった。割れ窓理論は人種差別と同義語だった。

アメリカの刑務所がノルウェーに学び始めている。

南アフリカマンデラ釈放から大統領就任までの4年間、内戦突入の瀬戸際にあった。アブラハムとコンスタンドという一卵性双生児が救った。マンデラと、アフリカーナ―の指導者コンスタンドが話し合い。ゴードン・オルポートは、「接触仮説」:偏見・憎しみ・人種差別は交流の欠如から生まれるを考えた。オルポートの接触仮説が成り立つことは南アフリカの例でも示された。

1914年クリスマス。英独兵士が塹壕でクリスマスを祝う。遠くの方では活動家や政治家が憎しみを煽るが、兵士は友人となった。平和という伝染病。

2006年コロンビアでゲリラを相手に広告活動。2017年FARCは武器を捨てた。