『武田薬品 M&A戦略 失敗の検証』(原 雄次郎著、さくら舎、2022年7月10日発行)

先日、武田薬品の株を買うかどうかを考えるために、有価証券報告書を見て、1株あたり利益よりも、配当金の方が多いのに驚いたことがある。調べてみると、武田の配当金は2009年3月期以降、2022年3月期まで一株あたり180円に固定されていて、この間、赤字でも配当金が変っていない。2023年3月期も同額を見込んでいる。14年間の配当金は180円×14=2,520円である。一方、この間の、基本的一株あたり純利益の合計は2,300円なので利益よりも配当金が多い状態が長年にわたって続いている状態である。一期の赤字決算で、安定配当を重視するために、配当を固定する会社は珍しくないが、武田のような状態は常識に鑑みて異常だろう。

本書は、どのようにしてこのような状態に至ったかを内部事情に詳しい人の立場から説明している。一言でいえば、無理なM&Aグローバル化を図ったということである。武田の本社は、まだ日本橋にある。しかし、実質的には、すでに日本の会社とは言えない状態になっているようだ。

外部の投資家の立場で見てもバランスシートが超ハイリスクな状態になっていることがわかる。武田薬品は2008年の決算書をみると自己資本比率80%、実質的に無借金の会社であった。しかし、2022年3月期は自己資本比率43%、非流動社債・借入金が4兆円超となっている。資産側を見るとのれんが4兆4千億円、のれんを除く無形資産が3兆8千億円である。これらは形を持っていない資産なので、どのように評価するかによって大幅に資産額が変わる。評価を1割厳しくするだけで、8千億円以上の赤字が出る。2022年3月期の純利益は2300億円に過ぎないので、あっという間に、崩壊する危険がある。

武田の経営者は、よく、夜眠れるものだと関心する。